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開店
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「お酒の注文伝票です。切らしていたお酒があったので」
「そんな場合じゃないですよ。って言うか、伝票に書いても、元の世界に戻れないんですから意味ないじゃないですか」
「まぁ、習慣みたいなものですから」
神谷がそう言いながら注文伝票にお酒の銘柄と本数を記入する。
「ビーフィーター・ジンを一本とタンカレーを一本」
「そんな場合じゃないですってば」
楓はそう言ってため息をついた。
が、その瞬間カウンターに鈍い振動が響く。
何だろうと思い、楓がそちらに視線をやると、先ほどまで何もなかったところに酒の瓶が二つ置いてあった。
「あの、あれって?」
「ビーフィーターとタンカレーですね。どちらもドライジンです」
「いやそう言うことじゃなくって、神谷さんが注文用紙に書いたやつじゃないですか?」
「そうですね」
「だからなんでそんなに冷静なんですか」
そう言いながらも楓はかなり動揺している。
神谷は少し何かを考えてから再びペンを動かした。
「ゴードンを一本」
注文用紙にそう書くと、先ほどの何もない空間から酒の瓶が現れる。
まるで何処かからワープしてきたように突如出現するのだ。
その瞬間を見ていた楓が思わず声を上げる。
「うわっ!なんですか、あれ」
「ゴードンです。あれもドライジンですね。ゴードンは世界百八十カ国で愛飲されている最もポピュラーなドライジンです」
「へぇ、そうなんですね・・・・・・じゃなくって!なんで何もないところからお酒が?」
「注文したら届くのではないでしょうか?」
神谷は冷静にそう言った。
そんな神谷の冷静さに楓は驚きながら言葉を返す。
「なんで受け入れられるんですか。だってこんなの現実的じゃないですよ」
そう言われた神谷は首を傾げた。
「現実的とはなんでしょうか?」
「え、リアルというか、科学的というか・・・・・・」
「目の前で起きていることはリアルですし、起きているのだから科学もなにもありませんよ」
「それはそうですけど」
楓がそう答えると神谷は微笑んでから言葉を続ける。
「それにバーテンダーという生き物は様々な困難に立ち向かうものなのですよ」
「困難に?」
「ええ。知っていますか?千九百二十年から十三年間アメリカでは酒類の製造・販売・運搬が禁止されたそうです。いわゆる禁酒法ですね」
「そうなんですか?」
「はい。しかし、バーテンダーは諦めなかった。禁酒法が施行される前のニューヨークには約一万五千軒のBARがあったと言われています。しかし、禁酒法が施行された後、隠れてお酒を提供するBARが約三万軒も営業されていたそうです」
「増えちゃうんですか?」
「増えちゃうんです。どんな状況でもバーテンダーはバーテンダーであり続けるのですよ」
神谷がそういうと楓は少し考えてから、まさか、という顔をした。
するとそんな楓の表情を見て神谷は微笑む。
「もうすぐ十七時半です。開店しましょうか」
「こ、こんな状況で、ですか?」
「店があってお酒は届く。そしてここにバーテンダーとバーテンダー見習いがいます。こんな状況だからこそ、前に進むために開店するんです」
神谷にそう言われると、そんな気がしてくる楓。
確かに元の世界に戻る方法が分からない以上、情報収集をするしかない。
しかし、どこかも分からない外に出て行くのも、危険な気がする。
BARとしてオープンし、地道に情報を集めるのが最適なのかもしれない。
「そ、そうですね。話を聞ける人が現れるかもしれませんし、それがいいかもしれません」
「では、オープンしましょう。楓さん、外のライトをつけてもらえますか?」
そう神谷に言われた楓は、お店の外を照らすライトを点灯させた。
<BAR パラレルワールド>異世界でも十七時半に開店する。
「そんな場合じゃないですよ。って言うか、伝票に書いても、元の世界に戻れないんですから意味ないじゃないですか」
「まぁ、習慣みたいなものですから」
神谷がそう言いながら注文伝票にお酒の銘柄と本数を記入する。
「ビーフィーター・ジンを一本とタンカレーを一本」
「そんな場合じゃないですってば」
楓はそう言ってため息をついた。
が、その瞬間カウンターに鈍い振動が響く。
何だろうと思い、楓がそちらに視線をやると、先ほどまで何もなかったところに酒の瓶が二つ置いてあった。
「あの、あれって?」
「ビーフィーターとタンカレーですね。どちらもドライジンです」
「いやそう言うことじゃなくって、神谷さんが注文用紙に書いたやつじゃないですか?」
「そうですね」
「だからなんでそんなに冷静なんですか」
そう言いながらも楓はかなり動揺している。
神谷は少し何かを考えてから再びペンを動かした。
「ゴードンを一本」
注文用紙にそう書くと、先ほどの何もない空間から酒の瓶が現れる。
まるで何処かからワープしてきたように突如出現するのだ。
その瞬間を見ていた楓が思わず声を上げる。
「うわっ!なんですか、あれ」
「ゴードンです。あれもドライジンですね。ゴードンは世界百八十カ国で愛飲されている最もポピュラーなドライジンです」
「へぇ、そうなんですね・・・・・・じゃなくって!なんで何もないところからお酒が?」
「注文したら届くのではないでしょうか?」
神谷は冷静にそう言った。
そんな神谷の冷静さに楓は驚きながら言葉を返す。
「なんで受け入れられるんですか。だってこんなの現実的じゃないですよ」
そう言われた神谷は首を傾げた。
「現実的とはなんでしょうか?」
「え、リアルというか、科学的というか・・・・・・」
「目の前で起きていることはリアルですし、起きているのだから科学もなにもありませんよ」
「それはそうですけど」
楓がそう答えると神谷は微笑んでから言葉を続ける。
「それにバーテンダーという生き物は様々な困難に立ち向かうものなのですよ」
「困難に?」
「ええ。知っていますか?千九百二十年から十三年間アメリカでは酒類の製造・販売・運搬が禁止されたそうです。いわゆる禁酒法ですね」
「そうなんですか?」
「はい。しかし、バーテンダーは諦めなかった。禁酒法が施行される前のニューヨークには約一万五千軒のBARがあったと言われています。しかし、禁酒法が施行された後、隠れてお酒を提供するBARが約三万軒も営業されていたそうです」
「増えちゃうんですか?」
「増えちゃうんです。どんな状況でもバーテンダーはバーテンダーであり続けるのですよ」
神谷がそういうと楓は少し考えてから、まさか、という顔をした。
するとそんな楓の表情を見て神谷は微笑む。
「もうすぐ十七時半です。開店しましょうか」
「こ、こんな状況で、ですか?」
「店があってお酒は届く。そしてここにバーテンダーとバーテンダー見習いがいます。こんな状況だからこそ、前に進むために開店するんです」
神谷にそう言われると、そんな気がしてくる楓。
確かに元の世界に戻る方法が分からない以上、情報収集をするしかない。
しかし、どこかも分からない外に出て行くのも、危険な気がする。
BARとしてオープンし、地道に情報を集めるのが最適なのかもしれない。
「そ、そうですね。話を聞ける人が現れるかもしれませんし、それがいいかもしれません」
「では、オープンしましょう。楓さん、外のライトをつけてもらえますか?」
そう神谷に言われた楓は、お店の外を照らすライトを点灯させた。
<BAR パラレルワールド>異世界でも十七時半に開店する。
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