異世界BAR

澤檸檬

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異世界

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「おそらく、文字が書いてあるのですが、もちろん日本語じゃありません。多分、外国の文字でもないです」
「え?」

 理解できずに楓が聞き返すと神谷は説明を始める。

「バーテンダーというのは世界中のお酒を勉強します。そうすると自然と世界中の文字を目にする。しかし、あそこに書かれている文字は全く見覚えがないんです」
「じゃあ、神谷さんも知らないような外国ってことですか?」

 楓がそう言うと神谷は首を横に振った。

「いいえ。ちょっと耳を澄ませてください」

 言われた通り楓が耳を済ませると、周囲の人の話し声が聞こえてくる。

「最近、盗賊が出たらしいよ」
「知ってるかい?隣の国では疫病が流行ってるらしいぜ」
「西の方では領地争いが起こっていて、傭兵が集められているらしい」

 どう考えても現代では話されないような内容だ。
 だが、それよりもおかしなことがある。

「日本語だ・・・・・・」

 楓は思わずそう呟いた。
 すると神谷は頷き、口を開く。

「そうなんですよ。どう考えてもここは日本ではないし、現代ではないのに、言葉は日本語なんです。つまりこれは・・・・・・」
「異世界」

 神谷の言葉を先読みして楓がそう答えた。
 認めたくはないが、現状を考えると、どうやらそういうことらしい。
 
「ちょっと冷静になりましょう。中で水を一杯どうですか?」

 神谷はそう言って一度店の中に入る。
 楓も店に入り椅子に座った。

「どうぞ」

 そう言って神谷は水の入ったコップを楓に渡し、自分もコップに水を注ぐ。

「ありがとうございます」

 礼を言うと言う一気に飲み干し、深呼吸をした。
 神谷はゆっくりと水を飲み、それから口を開く。

「状況を整理しましょう。先ほど地震がありましたね」
「はい・・・・・・」
「そして外を確認しようとしたら、商店街ではない景色が広がっていた」
「そうです」

 神谷の言葉に相槌を打つ楓。
 さらに神谷は言葉を続けた。

「慌てて裏口を確認したら扉は開かなかった」
「全く開きませんでした」
「そして、どう考えても、店の入り口が繋がっているのは地球とは別の世界」
「異世界・・・・・・ですね」
「まさか<BAR パラレルワールド>が本当にパラレルワールドに繋がってしまうとは」

 神谷はそう言って腕を組む。
 楓も少し冷静になり、考えた。

「え・・・・・・ってことは、異世界に閉じ込められちゃったってことですか?」

 そう楓が言うと神谷はゆっくり頷く。

「裏口からは出れない。表は異世界に繋がっている、と言うことはそうですね。そうなりますね」
「なんでそんなに冷静なんですか」
「慌ててもどうにもなりませんからね」

 神谷はそう言ってもう一口水を飲んだ。
 水を飲んでから神谷は思い出したかのように、カウンターの下から何かを取り出す。

「なんですか、それ」

 首を傾げながら楓が尋ねると神谷は胸ポケットからペンを取り出し答えた。
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