異世界BAR

澤檸檬

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 そう言って楓が扉を開くと、そこはいつもの商店街。
 なはずだった。
 
「ええええええっ」

 思わず楓は叫んでしまう。
 目の前に広がっている景色はまるで中世ヨーロッパのような街並みであった。
 そして当たり前のように人が歩いている。
 レンガ造りの家と石畳。歩いている人も明らかに現代の日本とは思えない服装をしている。西洋風な服装なのだが、どこか古めかしい。
 そんな風景に困惑していると楓の目の前を馬車が通った。

「な、なんで・・・・・・こんな」

 楓が困惑していると背後から神谷が声をかける。

「どうしました?」
「あの、神谷さん、これ」

 そう言われ、神谷も扉から出てきた。

「こ、これは・・・・・・どういうことでしょうか」

 いつも冷静な神谷も言葉を失ってしまう。
 どうやら理解が追いつかないようだ。
 その横で楓もまだ困惑の中にいる。

「商店街が改装したんでしょうか」
「いえ、どう見ても別の場所でしょう」
「ですよね」

 冷静な神谷の返答に頷く楓。
 どう考えても商店街ではない。
 しかし、何がどうなれば扉から別の場所に出てしまうのだろうか。
 少し冷静さを取り戻した神谷は思いついたことを口にする。

「裏口はどうでしょうか?」

 <BAR パラレルワールド>は表側に店のスペースがあり、奥に行くと従業員用のロッカー兼物置がある。そしてそこから裏通りに出れる裏口があった。
 そこから荷物や酒を搬入する。
 神谷にそう言われ、我に帰った楓は裏口を思い出した。

「そ、そうですね。ちょっと見てきます!」

 楓は急いで裏口へ向かう。
 神谷も楓の後ろについて行く。
 ロッカーに到着し裏口の扉を開こうとするが、力を入れても全く動かない。

「あれ?このっ・・・・・・だめだ、開きません」
「ちょっと代わってください」

 楓と交代した神谷が扉を開こうとするが、男性の力でもびくともしなかった。
 
「だめですね。開きません」
「ど、どうしますかっ。あの、えっと、これ、あの」
「楓さん。落ち着いてください。深呼吸です」

 神谷は楓に深呼吸をさせる。
 言われるまま深呼吸する楓だが、中々冷静にはなれない。

「えっと、表の扉は商店街じゃないところに繋がっていて、裏口は開かない・・・・・・これって、夢?」

 取り乱しながら楓がそう言うと神谷は冷静にポケットを探る。
 そのままポケットからスマートフォンを取り出し、少し操作した後、神谷はため息をついた。

「なるほど・・・・・・圏外ですね」

 神谷にそう言われた楓も慌てて自分のスマートフォンを確認するが、圏外という文字が画面の右上に表示されている。

「わ、私のもです。これじゃあ電話もできないです・・・・・・」

 それから神谷は少し考えてから再び表の扉へと向かった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ」

 慌てて神谷の背後について行く楓。
 神谷は表の扉を開くと周囲を見回した。

「どうしたんですか、神谷さん」
「あそこを見てください」

 神谷はそう言って、店の向かいにある建物を指差す。
 そこにはお店らしき建物があり、看板のようなものが掲げてある。
 その看板には見たこともない文字が書いてあった。

「何かの・・・・・・看板?」

 楓がそう首を傾げると、神谷が頷いた。
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