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澤檸檬

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噴水。

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 公園のベンチに座っていると、時計を見なくても時間がわかる。三十分おきに、目の前の噴水が作動するからだ。
 ああ、また時間が経過してしまった、と体から力が抜ける。俺に残された時間は、あと噴水一回分。三十分後には、死ぬらしい。
 突拍子もない話で驚いただろう? 俺もだ。何にもない人生だったが、いきなり終わると言われれば、それなりにショックだ。
 二時間半前、太陽がまだ真上にあった時のこと。行きつけの蕎麦屋を出たばかりの俺は、歯についた刻み海苔が気になって、舌で歯をなぞっていた。随分と間抜けな顔をしていたと思う。
 そんな俺の目の前に、黒いローブのようなものを着た男が話しかけてきた。占い師と言われれば占い師にも見えるが、そいつはこう名乗った。
「どうも、死神です。あなたはもうすぐ死ぬんです。そうですね、あそこに噴水があります。そう、目の前の公園の中にある噴水です。あの噴水が六回作動した時、あなたは死にます。避けられない死。ただし、それは幸福な死です」
 それだけを言って、死神は霧のように消えてしまった。すぐに信じたわけじゃないが、目の前で霧散するなんてこと、普通の人間にはありえない。
 俺はどうしていいのか分からず、とにかく噴水が見えるベンチに座った。
 死ぬまで三時間と言われて、何ができるだろうか。そう考えているうちに、いつの間にか二時間半が経っていた。何か美味しいものでも食べようか、とも思ったが、腹は蕎麦で満たされている。
 色々考えているうちに、もっと早く気づくべきだったことに気づいた。
「なんで、噴水の回数なんだ?」
 死神が示した死期が、時間ではなく噴水の回数であったこと。溢れ出てくる違和感に引き寄せられ、俺は噴水に歩み寄る。
 噴水の周囲には程よい湿気があり、涼しくて心地いい。よく見てみると、天使を模した装飾が施されていて、芸術品のようでもある。
 そういえば、噴水を眺めている間にも、何人かは足を止めて鑑賞していた。ちょうど今も、小さな子どもが噴水を眺めている。もうすぐ水が噴き出してくるだろう。噴水を見るにはちょうどいいタイミングだ。
 そんなことを考えながら、天使たちを見ていると、公園内で聞こえるはずのないエンジン音が聞こえてきた。即座に視線をやると、赤い車がこちらに向かってきている。
 減速する様子はなく、運転席では項垂れた男が、車の動きに振り回されていた。そうか、と俺は近くにいた子どもを突き飛ばす。
 その瞬間、噴水が作動した。噴き上がる水と同じ高さまで跳ね上がりながら、空を見上げると、黒いローブが浮かんでいる。その隣では、装飾品と同じ顔をした天使が、優しい瞳で地面に転がる子どもを眺めていた。
 こうして水は循環するのか。循環を見守る天使は、責任感が強いらしい。
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