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脱皮。
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昨夜、エビが脱皮をした。私は今日も脱皮をしない。
私の家では、ベルベットブルーシュリンプという種類のエビを飼っている。
ブルーと名前に入っている通り、青いエビだ。私の家では、と言ってみたけれど、正確には『母が』飼っている。大きな水槽に小さな青いエビが、何匹もいるのだ。
そしてどうやら私も、エビたち同様、母に飼われているらしい。
「どうしてお手本通りに弾けないの!」
ピアノの前で母が怒鳴る。すぐそばに置いてある水槽内で、小さな青たちが花火のように散った。私も散り散りになりたい気分だった。
三歳から始めさせられたピアノは、それほど好きじゃない。もう十五年目になるけれど、楽しいと思ったことは一度もなかった。
当然だ。母にピアノを強要されているのだから。
母は、若い頃からピアニストになりたかったらしい。けれど、手首の損傷だか何だかで、断念。そんな過去の願いを、今の私に背負わせている。
けれど、ピアノ以外のことで、生活に不自由はほとんどない。ピアノさえ我慢して練習すれば、何の問題もないのだ。
「ごめんね、お母さん。もっと頑張るから」
「あなたはもっとできる子なの。だって、お母さんの子だもの。指の皮が剥けて痛そうだけど、もう少し頑張りましょうね」
話は変わるけれど、母は昔から青い服が好きだった、と何度も聞かされてきた。しかし、肌の色だか、目の色だかと相性が悪く、着れないのだという。
別に着ればいいのに、と思う。でも、言わない。
だから母は、青いエビを飼うし、私に青い服を着せる。
正直、青い服は好みじゃないけれど、もう諦めていた。だって、青い服を脱いだところで、また着させられるだけだから。ベルベットブルーシュリンプが脱皮をしても、青いエビであることに変わりはない。
今日も私は、青い服を着てピアノを弾く。
エビたちは、前よりも大きくなっている気がした。
私の家では、ベルベットブルーシュリンプという種類のエビを飼っている。
ブルーと名前に入っている通り、青いエビだ。私の家では、と言ってみたけれど、正確には『母が』飼っている。大きな水槽に小さな青いエビが、何匹もいるのだ。
そしてどうやら私も、エビたち同様、母に飼われているらしい。
「どうしてお手本通りに弾けないの!」
ピアノの前で母が怒鳴る。すぐそばに置いてある水槽内で、小さな青たちが花火のように散った。私も散り散りになりたい気分だった。
三歳から始めさせられたピアノは、それほど好きじゃない。もう十五年目になるけれど、楽しいと思ったことは一度もなかった。
当然だ。母にピアノを強要されているのだから。
母は、若い頃からピアニストになりたかったらしい。けれど、手首の損傷だか何だかで、断念。そんな過去の願いを、今の私に背負わせている。
けれど、ピアノ以外のことで、生活に不自由はほとんどない。ピアノさえ我慢して練習すれば、何の問題もないのだ。
「ごめんね、お母さん。もっと頑張るから」
「あなたはもっとできる子なの。だって、お母さんの子だもの。指の皮が剥けて痛そうだけど、もう少し頑張りましょうね」
話は変わるけれど、母は昔から青い服が好きだった、と何度も聞かされてきた。しかし、肌の色だか、目の色だかと相性が悪く、着れないのだという。
別に着ればいいのに、と思う。でも、言わない。
だから母は、青いエビを飼うし、私に青い服を着せる。
正直、青い服は好みじゃないけれど、もう諦めていた。だって、青い服を脱いだところで、また着させられるだけだから。ベルベットブルーシュリンプが脱皮をしても、青いエビであることに変わりはない。
今日も私は、青い服を着てピアノを弾く。
エビたちは、前よりも大きくなっている気がした。
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