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澤檸檬

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金網。

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 ある日の朝、いきなり街を囲むようにして金網が貼られていた。
 政府からの発表があったのは、その日の十四時のこと。犯罪件数が著しく多い街を、街ごと封鎖し、周囲の治安を守るための施策らしい。
 事前に発表しなかったのは、前もって街から出る者がいないように、だという。
 金網は高さ三メートルほどしかないのだが、常時高圧電流が流され、周囲には発砲を許可された警察官が立っている。
「街ごと牢獄にしてしまったってことか」
 俺は家のベランダから金網を眺めながら、そう呟く。
 街の外では人権団体が抗議を始めた、とテレビから聞こえてきた。
 けれど、街の中では穏やかな日常が続いている。多少、金網に対して不満を漏らす声もあったが、その全てが『外との交流が持てない』ことについてだった。
「馬鹿だなぁ、外のお偉いさんたちは」
 金網にかかった費用はいくらなんだろう。なんて、どうでもいいことを考えながら、俺は鞄を持って鍵も閉めずに家を出た。
「この街に悪人なんていないってのに」
 金網の外では、『カモ』を失った犯罪者たちが他の『カモ』を見つけ、暴れているらしい。
 この街の人間たちは疑うことを知らない。誰もが、誰もを信頼し、平和に生きている。この街は犯罪者にとって狙い目だったというだけだ。穴だらけの施策に呆れてしまう。
 むしろ街にとって金網は、防壁として役立つ。
「ありがたいものだな」
 果たしてどっちが隔離されたのか、と俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
「これで仕事がしやすくなる」
 鞄の中に入れた『不動産投資』の資料が、いつもよりも軽く感じる。
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