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澤檸檬

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マイペース。

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 その魚はゆっくり泳いでいた。
 元々、泳ぐことがそれほど得意ではなかったし、早く泳ごうとすれば、酸素が不足して苦しくなる。マイペースってのは、生きやすい速度なんだ。
 けれど、他の魚たちは別の生き物のように、早く泳いでいる。群れを成して、それが正しいんだと言わんばかりに横目で遅い魚を笑う。
 そんなに早く泳がなくても食べるものには困らないし、死ぬわけじゃないだろうに。
 マイペースに泳いでいると、海域を一周してきた群れが遅い魚を追い抜かす。得意げな顔で、通り過ぎていった群れ。
 ゆっくり泳ぐ魚は群れに声をかける。
「前見た時より、数が減っていないかい?」
 群れの一匹が答えた。
「ついてこられない奴は置いていくんだよ。餌を見つけたら奪い合いになるし、群れの数は減った方がいい。弱い奴は淘汰されるものだ」
「だったらどうして群れになるんだい?」
「一匹で生きていくのは大変だからだよ」
「そうかな。自分の速度で泳げば、苦しくはないよ」
「それは、群れに入ることができなかったやつの言い訳だ」
 群れに属するその一匹は、ボロボロになった鰭をバタつかせて消えていった。
「よくわからないな」
 ゆっくり泳ぐ魚は、近くの岩場に餌を見つける。早く泳ぐ群れからは見えなかったのだろうか。好きなだけ食べられるのに。
 食事中、群れが通った後の海流に一匹で泳ぐ魚を見つけた。
 ところどころ鱗が剥がれて、ゆらゆらと漂うように泳いでいる。その姿を見て強いなんて思えるはずもなかった。
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