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心頭滅却。
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心頭滅却すれば火もまた、なんて精神論を蔓延らせる嘘も大概にして欲しい。
地球が背伸びをして、太陽にでもなってしまったんじゃないかとすら感じる猛暑日。
エアコンが悲鳴の様な音を漏らしながら、必死に室内を冷やす。けれど地球温暖化だか、歴史的な猛暑だかには勝てず、部屋の中だというのに汗が滴ってきた。
「暑い、暑い、暑い」
パソコンに向かいながら、打ち込んでいる文章とは関係のない言葉を吐く。
明日には提出しなければならない書類の作成が、一向に捗らないのは全部暑さのせいだ。古いエアコン、木造アパート、南向きの窓。何もかもが腹立たしい。
いっそバスタブに水を溜めて、その中で仕事をしてやろうか。自分でも呆れるほど馬鹿なことを考えていると、夏菜子がため息を吐いた。
「ねぇ、うるさい。暑い暑い言ってるから暑いのよ」
とんだ精神論だ。それが成立するのなら、心頭滅却してればいい。
「仕方ないだろ、暑いんだから。新しいエアコン買おうかな。もしくは遮光カーテンとか。日光をもっと遮れば、涼しくなる気がする」
「エアコンとか、カーテンとか、そんなことより涼しくなる方法があるじゃん。怖がればいいんだよ」
「ホラー映画とか、怪談話とかか? 作り物だってわかってれば怖くない。気の持ち様って言うと精神論みたいだけど、要するに理解できるものは怖くないんだと思う」
「違うよ、私! この部屋に憑く幽霊なんだけど!」
夏菜子は存在しない膝から下を見せびらかしてきた。いや、見えないんだけれど。
「怖くない」
「なんで!」
「しっかり見えてるし、会話もできる。話せば楽しいし、お化けだから怖い、なんて謂れのない決めつけだろ。心頭滅却と同じ」
「え、心頭滅却に何かされたの?」
夏菜子は気の毒そうに首を傾げた。自分がどんな未練を持って、この世に留まり続けているのかすら忘れてしまった幽霊に憐れみの目を向けられる。
精神論が嫌いなだけだ。
「ともかく、夏菜子は怖くない。むしろ居ないと寂しいくらいだ」
「やめて、優しい言葉をかけないで。なんか成仏しそうな気がする」
「あー、それはそれでいいんじゃないか? 人の数が減ったら部屋の中が涼しくなる気もする」
「精神論は嫌いなんでしょ、私に体温はないわよ」
そう、精神論は嫌い。
だから、憎まれ口を叩いてみた。夏菜子がここに居られるように。
夏菜子がいなくなったら寒くて、次の夏を迎えられない。
地球が背伸びをして、太陽にでもなってしまったんじゃないかとすら感じる猛暑日。
エアコンが悲鳴の様な音を漏らしながら、必死に室内を冷やす。けれど地球温暖化だか、歴史的な猛暑だかには勝てず、部屋の中だというのに汗が滴ってきた。
「暑い、暑い、暑い」
パソコンに向かいながら、打ち込んでいる文章とは関係のない言葉を吐く。
明日には提出しなければならない書類の作成が、一向に捗らないのは全部暑さのせいだ。古いエアコン、木造アパート、南向きの窓。何もかもが腹立たしい。
いっそバスタブに水を溜めて、その中で仕事をしてやろうか。自分でも呆れるほど馬鹿なことを考えていると、夏菜子がため息を吐いた。
「ねぇ、うるさい。暑い暑い言ってるから暑いのよ」
とんだ精神論だ。それが成立するのなら、心頭滅却してればいい。
「仕方ないだろ、暑いんだから。新しいエアコン買おうかな。もしくは遮光カーテンとか。日光をもっと遮れば、涼しくなる気がする」
「エアコンとか、カーテンとか、そんなことより涼しくなる方法があるじゃん。怖がればいいんだよ」
「ホラー映画とか、怪談話とかか? 作り物だってわかってれば怖くない。気の持ち様って言うと精神論みたいだけど、要するに理解できるものは怖くないんだと思う」
「違うよ、私! この部屋に憑く幽霊なんだけど!」
夏菜子は存在しない膝から下を見せびらかしてきた。いや、見えないんだけれど。
「怖くない」
「なんで!」
「しっかり見えてるし、会話もできる。話せば楽しいし、お化けだから怖い、なんて謂れのない決めつけだろ。心頭滅却と同じ」
「え、心頭滅却に何かされたの?」
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精神論が嫌いなだけだ。
「ともかく、夏菜子は怖くない。むしろ居ないと寂しいくらいだ」
「やめて、優しい言葉をかけないで。なんか成仏しそうな気がする」
「あー、それはそれでいいんじゃないか? 人の数が減ったら部屋の中が涼しくなる気もする」
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そう、精神論は嫌い。
だから、憎まれ口を叩いてみた。夏菜子がここに居られるように。
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