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澤檸檬

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水滴。

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 彼と恋人になってから一年以上が経った。
 最初の頃の燃え上がるような愛情と、初々しさは消え、もう彼から好意を伝えられることはない。
「一緒にいるんだから、好きに決まってるだろ」
 決まって彼は、視線を私に向けることもせず、そう言う。
 ずっと好き好きと言い続けるような関係を望んでいたわけでもないし、それでもいいと思っていた。
 これ以上近づくこともなく、離れもしない。そんな関係。
 そんなある日、彼はスマホの画面を眺めながら、心の浅瀬にあった言葉を漏らした。
「恋人になる前が一番楽しかったよね」
 それは彼が心の底に置いていた言葉。油断した瞬間、浅瀬まで浮かび上がってきたのだろう。
 私は燻っていた火が、完全に消えるのを感じた。
「そうね、じゃあ恋人でいなくていいね」
 自ら楽しもうとせずに、楽しいはずがない。
 燃え上がるような愛情は、燃え尽きてしまったのだろう。
 私に残ったのは、一年前の燃え盛っていた彼の幻想だけ。
 熱い思い出と冷たい現実は、温度差によって水蒸気を冷やし、私の目頭に水滴を落とす。
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