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澤檸檬

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面影。

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 我が家の猫は、鏡が好きらしい。
 この子が家族になったのは数ヶ月前。家の前にボロボロの服でも落ちているのかと思えば、小さな子猫がうずくまっていた。
 そのまま我が家で飼うことになるのは当然の流れだろう。
 もちろんいつも鏡の前にいるわけではなく、気がつけば鏡の前にいる程度だ。
「お前は本当に鏡が好きだな」
 私がそう話しかけると、猫は物欲しげな声を出す。
「お腹空いたのか? でもさっき食べたしな」
 私を見上げる視線が何かを求めているようで、応えてやれないのがどうにももどかしい。
 そんなある日、私は猫を動物病院に連れて行った。定期検診というやつである。
 小さな待合室の中で向かいに座った老婆が、飼い猫を膝に乗せたまま話しかけてきた。
「まぁ、可愛い子ねぇ。あらら? もしかして、その子数ヶ月前に拾った子じゃないかしら。私の家の前で震えていたから、拾おうとしたら逃げちゃってねぇ。そうなの、拾ってもらえたのね。よかったわ」
 老婆はそう言って優しい笑顔を浮かべた。
 その直後、老婆は何かを思い出したかのように、表情を固める。
 私が「どうしたんですか」と問いかけると、老婆は言いにくそうに口を開いた。
「私が見た時は二匹だったのよ。多分、双子ちゃんね。そっくりだったもの。でも、その後だったかしら。近くで子猫が事故に遭ったって話を聞いてね。保健所の方々が来てたから、悲しんでいたんだけど」
 それを聞いた私は、猫が鏡を見る理由に至ってしまう。
「そうか、だからお前は鏡を」
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