1ページ小説

価値。

「職場から家が遠くてさ。ちょっと雨宿りさせてくれない？」
　彼は私の家に来る度に、そう言って部屋に上がる。
　途中、コンビニで傘を買う数百円を節約するために、彼は私を抱くのだ。
　晴れている日や最初から雨が降っている日は顔を見せないくせに、昼過ぎから雨が降った日は、悪気のない笑顔で私を惑わす。
　たった数百円の代用だと分かっていても、私は彼を嫌いになれない。
　晴れているのに、いや、晴れているからこそ私は枕を濡らしてしまう。
　そんな日々に耐えきれなかった私は友人に本音を漏らした。すると友人は私を受け入れ、こう提案する。
「多分、寂しいから依存しちゃうのよ。今から私と飲みにいかない？　いくらでも話を聞くわ」
「いいの？　ありがとう。それじゃあ、今から……」
　その瞬間、外から雨の音が聞こえた。ああ、彼の音だ。
　何も言わず私は友人との電話を切る。今夜、この雨が降り止まないことを願って。