1ページ小説

Ｒe。

　水を飲む。
　ひやりとした流れが喉を通って、感覚ごと体に消えていった。
「これで楽になれるのね」
　先に飲んだ彼女は幸せそうな表情で俺に言う。
　たとえこの先待っているのが地獄だとしても、今生きている現実よりは救いがあるだろう、と俺が持ちかけた話だ。
　水が流れた後、喉に残る独特な異物感が自分の罪を胸に残す。
　そのうちに意識がなくなって、もう目覚めることはないだろう。ようやく逃れられるのだ。
「なんだか眠くなってきたね」
　彼女が落ちそうな瞼を支えながら言う。
　その言葉を聞いた瞬間、俺は情けなくなってきた。
　もっと幸せにしてあげたかった。もっと笑顔にしてあげたかった。もっと、もっと。
　もう手遅れだが、もう少し頑張って生きればよかった、と涙が溢れる。
　それと同時に俺も瞼が重くなった。
「ありがとう、ごめんな」
　俺はそう呟いて、二度と覚めることのない眠りに落ちていく。

「これで君は一度死んだね。今なら頑張れるかもしれないよ。それでも生きていたくなければ、次は『本物』を飲もうね」
　彼女は目覚めたばかりの俺にそう語りかける。机の上にあるのは睡眠薬の抜け殻だった。