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澤檸檬

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立ち。

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「タバコなんてやめろよ」
 上司が俺に言う。
 厄介なやつに絡まれてしまった。だが、表情に出すわけにはいかない。
「一回、禁煙したんですけど吸いたくなっちゃって」
 俺が答えると、上司は鼻で笑う。人に対して向けていい笑い方ではない。今すぐストレッチと称してしゃがみ、伸びる瞬間に上司の顎めがけてアッパーを入れてやろうか、とすら思った。
 俺の想像など想像できず上司は言葉を続ける。
「禁煙も続かないやつは何も継続できないぞ。俺も十年以上吸っていたが」
 長々と自分の体験から喫煙者を批判するつもりだ。
 いいか、タバコは法的に許された嗜好品だ。明らかなマナー違反をしていない限り、批判される覚えはない。
 上司の話を切るように俺は口を開いた。
「確かに何も継続できない人っていますよね」
 しゃがんで。
「だから、俺はタバコを続けるんです。タバコも継続できない人に何か継続できるんですかね」
 顎を打つ。
 無茶苦茶な理論だが、無茶苦茶な絡み方をしてきたのだからお互い様だろう。乱雑な方法で煙に巻く。
 俺は煙を吸いながら、上司の表情を眺めた。この場所には『煙』と上司の『苛』が立ち上っている。
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