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澤檸檬

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偶像。

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「くそ、裏切られた」
 俺が感情をむき出しにして言うと、友人が首を傾げて聞き返してくる。
「どうしたんだ?」
「推してたアイドルが彼氏持ちだったんだよ。熱愛報道が出てて、同棲までしてるって」
「何を裏切られたのさ」
「期待だよ」
「推してたアイドルが幸せならそれで良いじゃないか。応援するってそういうことだろ」
 友人の言葉は俺の鼓膜を揺らすが、心まで届かない。
「いや、許せねぇよ。俺の時間とお金を返してくれよ」
 苛立ちをそのまま言葉にする俺。言葉の勢いそのままに壁を殴る。
 すると友人はいきなり立ち上がって、俺に近づいてきた。恐怖を覚えるほどの無表情で、友人が口を開く
「裏切りやがって」
「え?」
 何を言っているのかわからなかった俺は一音で聞き返した。
 しかし、友人の顔に張り付いた虚無は消えない。
「そんなやつだと思わなかったよ。他人の幸せを願えないなんてさ。お前と過ごした時間を返してくれよ」
「何言ってんだよ。俺たち友達だろ?」
「ああ、だからお前には人としての良識を期待してたんだけどな。期待を裏切られたよ」
「そんな勝手な……」
「お前がしてたことと同じだろ」
 友人が友人として最後に放った言葉は鼓膜を突き破るように、俺の心に刺さる。
 その傷口から溢れ出した羞恥が視界を歪ませた。まるで鏡に吐いた唾が俺の顔を醜く滲ませるように。
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