1ページ小説

幸福。

　親になった。まだ実感はない。
　俺の持っていた『親』へのイメージは怒らせてはならない人だった。酒を飲んでは暴れる父親。そんな父親に逆らえず、その憂さ晴らしに俺を利用する母親。
　だが、過去のことなんてどうでもいい。大切なのは俺が『良き親』を知らないことだ。
　幸せな家庭も知らない俺が親になっていいのか、なんて何度も考えた。
　その度に彼女は優しく微笑みかけてくれる。
「一人でなるんじゃないよ。一緒に幸せな家庭をつくろうね」
　彼女の言葉に支えられて今日を迎えた。
　彼女が命をかけて産んだ新しい命。俺の新しい家族。
　まだ自分で立つことも出来ず、言葉も話せない小さな体は大きな声で泣き、自分の存在を主張していた。
　優しく抱き抱えると心地よさそうにくしゃくしゃな笑顔を浮かべる。
　親になった。ようやく実感した。俺は幸せだ。