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噛み跡

　彼女には噛み癖がある。
　どういうわけか、一緒にいる時いきなり俺の腕を噛んでくるのだ。
　俺が何かをして怒らせたわけではない。ゆっくりしている時、突如として噛んでくる。

「なぁ、どうして噛むんだい？」

　俺が問いかけると彼女はイーと歯を見せてからこう答えた。

「なんかね、愛おしいと思った時噛みたくなるの。食べたいくらい可愛い、みたいな感じ」
「例えを実行するんじゃありません」
「そんなこと言うと噛んじゃうからね。えい」

　そう言って彼女は俺の腕を噛む。

「いてて」

　彼女を引き剥がすとくっきりと噛み跡が残っていた。
　
「人のこと噛んだらダメだよ」

　そんなことを言いながらも嫌な気持ちにならないのは、俺が彼女に食べられてもいいと思えるほど愛しているからだろう。