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泣き声。
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生きることを選べば、声が出せなくなるらしい。
今更病名を説明するまでもないだろう。人間が未だ勝利を目指しているあの病気だ。
声帯を除去しなければ生きていけないという現実。
そして声帯を除去すれば声が出せなくなるという事実。
二つが重なり生きていくためには声を捨てなければならないという一択を迫られた。
いや、人によっては声が出なくなるならば生きていても仕方がないと思うかもしれない。
だが、私は生きることを選んだ。
「最後に音声を残しておきましょう」
医者は私にそう提案した。
誰かにメッセージを残しておく人は多いらしい。
最近では様々な言葉を録音しておくことで音声合成ソフトなどを用いて自分の声で会話することも可能なのだとか。
さらに医者はこう言った。
「手術までの間にできるだけ話したい人と話しましょう。後悔をしないなんてことはあり得ませんが、それでも話したい人と話した思い出は自分自身を支えてくれます」
話したい人か、と私は考える。
親、兄弟、友達。もう二度と話せないと言われれば、一定以上関係のある人とは話しておきたい。
そう考えていく中で私の頭の中には一人の男の顔が浮かんだ。大学進学のため上京するときに別れた彼である。
「もしもし、元気?」
後悔しないようにと電話をかけてみる。
すると彼は不思議そうにしながら優しく答えた。
「うん、元気だよ。久しぶりだね、どうした?」
「ううん、ちょっと声が聞きたくなって」
「何言ってるんだよ。高校卒業してもう十年だし、もう忘れてただろ」
「忘れるわけないよ、初めて付き合った人なんだから」
「そりゃ、俺もだけどさ。じゃなくて何か用だった?」
「本当に声が聞きたかっただけだよ。ううん、声を聞いてもらいたかっただけ」
私が悲しみを噛み締めながらそう伝えると、彼は少し間を空けてから突然こう言い出した。
「今どこ。すぐにいく」
「え?」
「何かあったんだろ。それくらいわかるよ」
「・・・・・・何もないよ、大丈夫」
「わざわざ電話してきて『大丈夫』って言いたかったの? 違うだろ」
大人になった彼の声は思い出よりも力強い。さらに彼はこう付け足した。
「言いたいことを我慢してたらいつか本当に言えなくなるよ」
まるで私の事情を知っているかのように聞こえる。
「うん、あのね、私の最後の声を聞いてほしい」
涙を我慢しながら私はそう伝えた。
今更病名を説明するまでもないだろう。人間が未だ勝利を目指しているあの病気だ。
声帯を除去しなければ生きていけないという現実。
そして声帯を除去すれば声が出せなくなるという事実。
二つが重なり生きていくためには声を捨てなければならないという一択を迫られた。
いや、人によっては声が出なくなるならば生きていても仕方がないと思うかもしれない。
だが、私は生きることを選んだ。
「最後に音声を残しておきましょう」
医者は私にそう提案した。
誰かにメッセージを残しておく人は多いらしい。
最近では様々な言葉を録音しておくことで音声合成ソフトなどを用いて自分の声で会話することも可能なのだとか。
さらに医者はこう言った。
「手術までの間にできるだけ話したい人と話しましょう。後悔をしないなんてことはあり得ませんが、それでも話したい人と話した思い出は自分自身を支えてくれます」
話したい人か、と私は考える。
親、兄弟、友達。もう二度と話せないと言われれば、一定以上関係のある人とは話しておきたい。
そう考えていく中で私の頭の中には一人の男の顔が浮かんだ。大学進学のため上京するときに別れた彼である。
「もしもし、元気?」
後悔しないようにと電話をかけてみる。
すると彼は不思議そうにしながら優しく答えた。
「うん、元気だよ。久しぶりだね、どうした?」
「ううん、ちょっと声が聞きたくなって」
「何言ってるんだよ。高校卒業してもう十年だし、もう忘れてただろ」
「忘れるわけないよ、初めて付き合った人なんだから」
「そりゃ、俺もだけどさ。じゃなくて何か用だった?」
「本当に声が聞きたかっただけだよ。ううん、声を聞いてもらいたかっただけ」
私が悲しみを噛み締めながらそう伝えると、彼は少し間を空けてから突然こう言い出した。
「今どこ。すぐにいく」
「え?」
「何かあったんだろ。それくらいわかるよ」
「・・・・・・何もないよ、大丈夫」
「わざわざ電話してきて『大丈夫』って言いたかったの? 違うだろ」
大人になった彼の声は思い出よりも力強い。さらに彼はこう付け足した。
「言いたいことを我慢してたらいつか本当に言えなくなるよ」
まるで私の事情を知っているかのように聞こえる。
「うん、あのね、私の最後の声を聞いてほしい」
涙を我慢しながら私はそう伝えた。
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