1ページ小説

髪。

｢どうして髪を切ったの？｣
　長かった髪をバッサリ切った次の日の朝、友人は悪気なく問いかけてきた。
　それはそうだろう。私にとって髪は何よりも大切なもの。それを友人も知っていた。
　毎日の手入れを欠かしたことなどない。綺麗に伸ばそうと努力していた。
　でも、何よりも髪を大切にしようと思ったのは彼が私の髪を褒めてくれたからである。
｢綺麗な髪だね｣
　毎日彼は癖のように私の髪を撫でながらそう言ってくれた。
　けれど、彼は他の場所にその手を伸ばしてしまったらしい。私がほかの女の気配を察したと気づいた彼は自ら告白した。
｢ごめんね。あの子を本気で愛してしまったんだ。本当にごめん｣
　そう言いながらも彼は私の髪を撫でる。ほかの女を抱いた手で私の大切なものを汚していった。
　髪に詰まった思い出と受けた愛を私は切り捨てたのである。
　私は引きつった笑顔で友人に答えた。
｢失恋しちゃって｣
　これは私の精一杯の強がり。