1ページ小説

澤檸檬

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耳かき。

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「耳かきを他人にしてもらうのは、多大なる信頼関係が必要だと思いませんか」
「何を言っているの?」
 私が話しかけると彼女は怪訝な表情でそう問いかけてきた。
 しかし、私は彼女の表情を気にせずに話を続ける。
「耳というデリケートな部分に細い棒を突っ込む行為・・・・・・命を預けると言っても過言ではないでしょう」
「過言でしょう」
「かきくけこ」
「か行ですね。じゃなくていい大人が耳かきを持って何を言っているんですか?」
 呆れながら彼女は言い放った。
 だが、ここで負けるわけにはいかない。
「つまりですね、愛のある行動ということですよ」
「まぁ、確かに嫌いな人間の耳を掃除したいとは思いませんね」
 ようやく彼女の同意を一つ得た私は次のステップに進む。
「話は変わりますが、愛しています」
「ありがとうございます。私もですよ」
 彼女は淡々と表情を変えることなくそう答えた。
 よしよし、と私は心の中で頷く。
 これで次に進めるはずだ。
「そしてここにに丁度こんなものがあります」
 言いながら私は先ほど指摘された耳かきを掲げる。
 すると彼女は冷めた視線を私に送りながらこう答えた。
「先ほどからずっと持っていたでしょう。というよりも持ってきたんでしょう。ちゃんと棚にしまっておいて下さいね」
 この言葉は計算違いである。ここまで来れば目的を達成できると思っていた。
 成功を目の前にして作戦が崩れた私が絶望の表情を浮かべると、彼女は呆れたように微笑む。
「ふふふっ、全く素直じゃないですね。ほら、どうぞ」
 優しくそう言いながら彼女は膝を差し出した。
 絶望から救い上げられた私は尻尾を振る犬のような表情で近づく。
 作戦は失敗したが目的は達成された。
 彼女からの優しい愛を音と心地よい耳かきで感じる。
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