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澤檸檬

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危機感。

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 いつも通りのルートを車で巡る。この白と黒の車は見る者によって表情を変えるらしい。安心、尊敬、畏怖。俺が乗るこのパトカーは抑止力であり、安心感の塊だ。
 だが、警察だけでは治安は守れない。市民の協力あってこその安全である。
 鍵のかかっていない玄関。開けっ放しのカーテン。手入れのされていない庭。見せかけの偽物だとすぐに分かる粗悪な監視カメラ。そんなものが運転している俺の目に飛び込んできた。
「困ったものですね。あれじゃあ空き巣を誘ってるようなものじゃないですか」
 俺の隣に座る後輩警官がそう話す。彼は正義感が強く、曲がったことが許せない。まるで、刑事ドラマから出てきたような男だ。
 俺が頷くと彼は言葉を続ける。
「最近、この辺で空き巣が連続で発生しているのに、危機感が見えませんね」
「何言ってんだよ。市民が危機感を持たなくていいように俺たちが頑張るんだ」
 そう俺が言葉を返すと彼は「そうですね」と意気込んだ。
 その後、俺は聞こえないように小さく呟く。
「持たれちゃ困るだろ危機感なんて。俺の副業がやりにくくなるからな」
 安心感を与えるパトロールで危機感を盗んでいるのだと、後輩は知らない。
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