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息苦しいほどの戦い

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「僕には貴女の過去を覗き見る能力があります。いい趣味とは言えないでしょうけど、戦場なので許してください。まぁ、だから、僕は貴女がこの世界に絶望していることも知っていますよ。殺人兵器としてのみ生き続ける悲しみ。人を殺さなければ生きていられない価値観。貴女の植え付けられた苦しみは、言葉なんかでは表せない」
「私の何がわかる!」
「分かりませんよ。貴女の悲しみも苦しみも貴女だけのものです。それでも僕は、貴女を殺さない。その事実は変わりません」

 倉野はそう言ってから一呼吸おいて、自分の首筋を撫で言葉を続ける。

「まぁ、そうは言ってもこの戦いには勝たなければならないので、話の続きは全てが終わってからにしましょう。というわけで、あとはリオネさんにお任せしますね」
「は?」
「スキル『神速」発動!」

 倉野は話でミミーの気を逸らし、魔法での防御が発動されるスキル『神速』で相対的な時間停止を展開。
 彼女の体を抱え、リオネの側まで移動した。
 ミミーからすれば強制的な瞬間移動のようなものである。
 突然自分の居場所が変わったミミーは一瞬で周囲を見渡し、状況を把握した。

「ここは・・・・・・そうか、くそ!」

 その隙に倉野はリオネの名前を呼ぶ。

「リオネさん、お願いします」

 決めていた段取り通り、リオネが魔法を発動。可能な限り、ミミーを傷つけないように意識を奪うのだ。

「はい! 風よ・・・・・・エアー・ディサピアー」

 発動した魔法はなんてことない簡単な風魔法である。風を操るだけの魔法だ。
 しかし、この魔法はどんな攻撃魔法よりも強力かつ、効果的。それでいて優しさが組み込まれている。
 魔法の発動を確認したミミーだったが、魔法自体を視認することはできず、何が起きたのか分からなかった。

「何を・・・・・・」

 その瞬間、彼女は視界の歪みと胸が締め付けられるような苦しさを感じる。
 思考力が奪われ、頭痛と耳の奥が圧迫されるような感覚に襲われた。

「くっ・・・・・・な」

 疑問を言葉にしようとする彼女は、口を開き呼吸をするたび、症状が増していくことに気づく。
 ミミーはそのまま膝から崩れ落ち、意識を失うギリギリのところでリオネを睨みつけた。

「な・・・・・・にを・・・・・・した」
「私はクラノさんに教えられた通りしただけです」

 リオネが答え、ミミーの視線が自分に向いたことを確認すると、倉野は深く息を吸ってから話し始める。

「リオネさん、もう魔法を解いてください。これ以上は命に関わりますから」
「はい」

 倉野の指示を受け、リオネが腕を下ろすと、ミミーは一気に体が楽になっていくのを感じた。それでもいきなり動き出せる状況ではない。

「一体・・・・・・何をした・・・・・・」
「わざわざ敵に説明すると思いますか? 貴女が理解すべきことは、いつでも同じ魔法を発動することができる、ということです。これ以上抵抗しないことを願いますよ、俺は」

 そう話す倉野の背中を見ながら、リオネはこんなに上手くいくものなのか、と驚いていた。
 先ほど作戦会議の中で倉野から提案された、この世界に存在しない魔法。それが『エアー・ディサピアー』である。
 未だ完全に理解できてはいないリオネだったが、行ったのは一つだけ。ミミーの周囲にある空気から『酸素』だけを減らすというものだ。
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