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鼠の追い詰め方

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 偽ミミーを失うということは敵側にとって、戦力の五分の一が欠落した事実だけでは済まない。
 そもそも便宜上、スキル『感覚共有』を持っている者を偽ミミーと呼んでいたが、ミミー本人以外の四人は全員偽ミミーである。いや、五人揃ってようやく傭兵ミミーとなるのだが、ミミーの『千里眼』と偽ミミーの『感覚共有』がなければ機能しない。
 残りの三人は弓の扱いに長けた傭兵である。あえて言うならば替えの効く兵隊でしかない。
 倉野はそこまで考え、最初に偽ミミーを叩いたのだった。

「これで相手の戦力は半減しました」

 そう、敵側の戦力は文字通り半減したのである。
 しかし倉野の計画の全てなどリオネが知るはずもなく、首を傾げた。

「え、でもまだ四人残っているはずじゃあ」
「確かにまだ四人いますが、ミミー本人以外は大した戦力になりませんよ。残る敵はミミーだけみたいなものです」

 スキルもなく戦えば一人相手でも確実に勝てませんけど、と倉野は心の中で呟く。
 倉野が努力によって得たスキルは、腕力や技術などの低さを埋めて有り余るものだ。
 さらに倉野は言葉を付け足す。

「ミミー以外の三人は、ミミーに合わせて矢を放つくらいしかしてきません。けどスキル『感覚共有』を失った今、どのタイミングで矢を放つのかわからないはずですから、それすらもできない」
「それじゃあ、あとはミミーを倒せば!」

 結論を急ぐリオネだったが、倉野は落ち着いた様子で首を横に振る。

「いえ、ミミーよりも先に残りに三人を叩きましょう」

 先に三人を叩くことでどのようなメリットが生まれるのかわからず、リオネは一瞬止まってしまった。

「ミミーより先に三人を?」
「ええ、ミミーを孤立させれば『ドラゴンの逆鱗』発動の危険も避けることができますから」
「孤立させることで? 明らかな不利に陥れば、むしろ『ドラゴンの逆鱗』を発動する可能性が高くなるんじゃないですか?」

 普通に考えればリオネの言う通りだろう。
 ゼット商会側にとって『ドラゴンの逆鱗』は最後の手段だ。負けるくらいならば全てを巻き込んで破滅する、という意思の現れ。
 ミミーを孤立させ、追い詰めれば発動されると考えるべきだろう。
 だが、倉野の見ている近い未来は別の形を成していた。

「ミミーはこれまで、個人の能力とチームワークで数々の標的を沈めてきました。彼女の強さは残りのミミーに支えられているんです。それは戦力だけではなく、心もですよ」
「心?」
「一人になればミミーは驚くほど脆い。闇の世界しか知らぬ若い女性・・・・・・ここまで負けたことも窮地に立ったこともない彼女が孤立してしまった時に、冷静な判断ができるでしょうか?」
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