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包囲網を倍返し

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「そんなことありませんよ。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「これまでリオネさんを獲物と見定め追い詰める側にいた人間が、逆に追い詰められていくんです。どれほどの恐怖か・・・・・・叩き込んでやりましょう。何せ、リオネさんの命を奪おうとしたんですから」

 これほど荒ぶっている倉野をリオネは見たことがなかった。
 穏やかで陽だまりのような倉野が、その熱源を露わにし怒りを燃やしている。自分の為に怒気を纏う倉野には頼もしさと、敵に回した時の恐ろしさを感じた。

「クラノさん、一体何を?」
「当然、リオネさんの感じた恐怖と痛みをそのままお返しするんですよ。いや、そのままじゃあ足りませんよね。ああ、僕の国にはこんな言葉があります・・・・・・倍返しってね」

 そう言ってから倉野は足元を指差す。

「ほら、ちょうどここにはミミーが放ってきた矢が大量に落ちてます。背中は僕が守りますし、偽ミミーの場所をお伝えしますので可能な限り矢を放ってください。狙いは大体でいいです。むしろその方がいい。こちらが確実な居場所を掴んでいる、と悟られずに済む」

 これまでリオネに余裕がなかったので認識していなかったが、確かにミミーから放たれた矢が周辺に散乱していた。これだけあれば矢が切れる心配はない。
 リオネは倉野の指示通りに矢を拾い集めてから、先ほどと同じ方向に弓を構える。

「この方向でいいんですか?」

 リオネが問いかけると、倉野は振り向かずに答えた。

「ええ、多少のズレは気にせずに数を放ってください。大変だとは思いますが」
「これまでの追い詰められていたことを考えれば、百本や二百本放つくらいなんてことありませんよ!」

 彼女はその言葉と同時に最高速度で矢を放つ。そんな速度で矢を放てば手持ちの分はすぐになくなる。その度に足元の矢を拾い補充した。
 矢の嵐とまでは言わずとも、小気味のいいリズムで矢が偽ミミーに向かう。

「いい感じですよ、リオネさん」

 スキル『説明』の一画面を使って偽ミミーの動きを確認していた倉野は、思わず口角を上げた。
 森を抜けたところで偽ミミーは次の行動を決められず慌てふためく。自分の体を射抜く位置に飛んではこないものの、周囲に飛来する矢。スキル『感覚共有』を利用して本物のミミーにどうすればいいのかと尋ねるが、向こう側も混乱の最中にあった。

「残念だな、偽ミミー。本物の方はどうして矢が届かないのか、解明している途中だよ。それも連続で矢を放ちながらね!」

 本物と偽の動向を確認しながら話している倉野だが、リオネからすると完全に独り言である。それも自分の作戦が上手くいき、悪い顔をしたままだ。
 偽ミミーに矢を放ち続けているリオネから倉野の表情は見えないが、声で大体わかる。

「クラノさんが良い人でよかったですよ、本当に」
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