異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

ミミーの正体

　いつの間にか彼女の目の前に立っていた倉野は、息を切らしつつ、強い眼差しで語りかける。

「状況はわかっています！　とにかく僕に魔法を付与してください。あとは僕が！」

　どうして倉野がここにいるのか。自分の戦いはどうしたのか。何故状況を把握しているのか。数々の疑問と感情で胸がいっぱいになるリオネだが、誰よりも信じている倉野の言葉が全てを吹き飛ばす。

「は、はい！」

　倉野が何をしようとしているのか、この時点のリオネはわかっていない。しかし、彼の必死さを見れば急いでいることは明白だった。
　即座にリオネは風を纏う魔法を発動する。

「ウィンドウ・ベール！」

　それ自体に威力のある魔法ではないが、風を纏い防御力を高める効果があるものだ。
　自分に付与された魔法を確認した倉野は即座に振り返り、飛来する矢の方向を睨みつける。

「あとは僕に任せてください。それと・・・・・・ありがとうございました。リオネさんのお陰で、僕はリオネさんを守ることができる。スキル『神速』発動！」

　倉野がそう言い放った瞬間、リオネの目の前から彼は姿を消した。倉野が姿を消すこと自体にリオネが驚くことはない。当然ながら彼女はスキル『神速』の能力を知っていた。
　そこでようやくリオネは、倉野が何をしようとしているのか理解する。

「魔法を纏ってスキル『神速』・・・・・・まさか、全ての矢を生身で・・・・・・」

　彼女がそう呟き終えたと同時に、瞬間移動でもしてきたかのように倉野が現れた。

「ふぅ、間に合ってよかった」

　倉野がそう言うと、一気に緊張から解き放たれたリオネは涙が溢れそうになる。

「ク、クラノさんっ！　その、私・・・・・・すみません、せっかくツクネに助けてもらったのに、ミミーに負けて・・・・・・」

　なんとか涙を堪えながら気持ちを吐露するリオネ。そこで倉野はリオネの肩に手を置いた。

「大丈夫ですよ、リオネさんは負けてなんかない。というか、ツクネが来ていたんですね。良い仕事するなぁ、ツクネ」
「慰めてくださっているんですよね。でも、私はミミーとの一騎打ちに勝つことができませんでした」

　少し重めの自虐にも聞こえるが、リオネが受けていた緊張感や絶望を考えれば無理もない。
　その上、背負っていた責任が彼女を追い詰めていた。
　それでも倉野は首を横に振る。

「元々、一騎打ちなんかじゃなかったんですよ」
「え？」
「ミミーという女性は一人ですが、闇の傭兵『ミミー』は五人いる」
「五人・・・・・・一体どういう・・・・・」