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抉られた痛み

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 基本的に風魔法を扱うリオネだが、他属性の魔法素養が全くないわけではない。
 生きるために必須な水魔法同様、冒険者として火を起こせなければ野営も暗所の探索など出来ないことが多くなる。もちろん、火打石は存在しているが労力を考えれば、魔法を覚えた方が早い。
 いつもとは違う魔法式を用いて、リオネは右手に魔力を溜める。
 そうしている間にも傷口から血液が泉のように溢れていた。

「うぐっ・・・・・・」

 既に右足に力は入らず、何とか引きずって体の近くに寄せる。
 改めて見ると、あまりにも傷が深い。矢が掠めただけではこのような傷口にならないだろう、というほど細かく切り刻まれている。
 魔力を貯めた手で傷口を押さえつつ、リオネは状況を把握するように呟いた。

「つっ・・・・・・切り傷じゃなくて、削ったような・・・・・・私と同じように風魔法を纏わせた矢なのね。見る限り、私の風魔法よりも跡が細かい・・・・・・長距離なのに威力が落ちず、精度が高いのは魔法の効果・・・・・・」

 気絶しそうなほどの痛みの中、ミミーの能力を分析するリオネ。
 純粋な弓を扱う能力だけではなく、魔法にも長けていることを考えれば、近距離で戦ったとしても強敵だろう。
 彼女が優れているのは弓の一芸だけではないということだ。様々な能力に恵まれた凄まじい射手、ミミー。
 だが、そんなことを言っている場合ではない。これはリオネが自らに火傷を負わせる覚悟を決めるための間でしかなかった。

「ふー・・・・・・やるしかないの。死ぬよりはマシ。マシなのよ!」

 冷や汗なのか、痛みによる汗なのか、はたまた疲労による発汗なのか。頬を伝い、顎から滴る汗がリオネの限界さを語っている。
 それでも焼かなければならない。自分の傷口を自分で焼かなければ死ぬ。それだけは変わらないのだ。

「炎よ・・・・・・ファイ・・・・・・」

 意を決してリオネが炎魔法『ファイア』を発動しようとした瞬間、彼女の髪が突風に靡く。

「クー!!」

 風と同時にリオネの鼓膜を揺らしたのは、安心感を思い出させる鳴き声だった。

「え?」
「ククク!」

 声の方向に視線を送ると、木々の隙間を通ってこちらに飛来する何かが見える。

「まさか・・・・・・ツクネ?」
「クー!」

 小さく見えていた影は瞬く間に接近し、リオネの足元に着地した。
 それは間違いなく、倉野の相棒ツクネである。

「ククッ」
「ツクネ・・・・・・どうしてここに? あなたは後方でバレンドット軍内に裏切りがないか確認していたはずじゃあ」
「クー!」

 リオネの言葉に対して、自分なりの言葉で答えるツクネ。内容まではわからなかったが強い意志を感じる。
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