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一矢必中

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 心配なあまり倉野の方に意識を奪われるリオネ。
 先ほど集中力を切らし、もう少しで頭を射抜かれていたかもしれない、というのに倉野への心配が勝ってしまった。
 その結果、リオネはギリギリまで自分に向かってくる危険に気づかない。
 スキル『風読み』本来の範囲よりも自分に近い矢に気づいたリオネは、即座に回避しようと右側に飛んだが、ほとんどの意識を倉野に持って行かれていた分、遅れてしまった。

「間に合わなっ・・・・・・」

 何とか体を傾け、地面を蹴ったところで前方からやが飛来し、右の太ももを掠める。

「うっ!」

 掠めた、といっても先ほどのように皮膚一枚だけを切り裂くような状態ではなく、肉の一部を抉り取るような掠め方だった。
 矢は血管を引き裂き、痛覚神経がズタズタに傷つけられる。痛みという危険信号は何よりも早くリオネの脳を貫いた。
 
「うぐっ・・・・・・」

 冒険者という職業柄、痛みには慣れているリオネだが、それでも痛いものは痛い。スキル『痛覚軽減』を持っている倉野とは違うのだ。
 そのまま右足を引きずり、違う木の陰に隠れたリオネは全身に冷や汗をかきながら、服の一部を引きちぎり止血する。と言っても、傷口を強く縛る程度の応急処置に過ぎない。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・つっ・・・・・・どうして私は同じミスを」

 自分を責めるリオネ。しかし、仕方ないとも言える。
 極度の緊張状態の中、通常の何倍も集中力を要する新たな試み。その上、意中の相手が窮地に立たされているのを知って冷静でいれるはずがなかった。
 感情のある人間ならば当然だ。
 
「ダメ。今、余計なことを考えている場合じゃない、反省なら後ですればいいもの。とにかく、この戦いとクラノさんのことを・・・・・・」

 リオネはジンジンと響く痛みを意識から除外し、次の行動を探る。
 そもそもだが、リオネの役割はミミーを釘付けにすること。他の者との連携を遮断していれば、勝つ必要はない。
 自ら『勝つ』と宣言したものの、全体のことを考えれば、少しでも戦いを長引かせるのが最適解だろう。
 その上で優先すべきは倉野が自由に動けること。
 主戦力である倉野が自由に動けない時間が続けば、ノエル救出作戦全体に支障が出かねない。
 頭の中でそう優先順位をつけたリオネは覚悟を決めた。

「とにかく、クラノさんさえ自由に動ければ、戦況は大きく動くはず。なら、射手である私がすることは!」

 リオネは自分に言い聞かせるように呟いてから、弓を強く握り、矢を筒から取り出す。
 射手に課せられた初歩かつ最大の使命は一矢必中。もちろんこれは理想論に過ぎないが、弓を手に取ったその日から、弓を置く最後の日まで求められる理想だ。
 そして今、明確に一矢で射抜くことが求められている。
 何度も矢を放つ余裕などミミーが与えてくれるはずもない。そんな体力も集中力も残っていない。
 呼吸と魔力を整え、リオネは弓を構える。
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