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過去を切り裂く燕

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 レインが込めたのは魔力だけではない。
 一度完全敗北を喫したことによって彼の勝利への想いは強くなっていた。そんな想いを込めて剣を振り上げる。
 レインにとって幸運だったのはこの場に『想いに反応する魔物』がいたことだ。
 人の心に対して敏感な魔物フェレッタであるツクネは、レインが抱く『勝利への執着』を感じ取り同調する。

「クー!」

 ツクネが放った魔力はレインと同じく風の特性を持っている。混ざり合った風は同じように剣に込められた。
 そんなツクネの助力に気づきレインは口角を上げる。

「一緒に戦ってくれるのかい、ツクネ。どうやら俺と魔力の相性は良いらしい。クラノが知ったら嫉妬するかもしれないね」

 レインはツクネと会話しながら、力みすぎずに剣を振り下ろした。
 相対するビゼラードもこれまでのレインたちの行動を黙って見ていたわけではない。残っていた魔力を右手と左手に振り分け、右手で炎の盾、左手で炎の槍を生成していた。

「たかが一度、死の淵から蘇っただけで! たかが一度、攻撃の機会を得ただけで弱者が勝者のように振舞わないでいただきたい! あなたの魔法は私に通じない!」

 そう言い放ち、ビゼラードは右手の盾を頭の前に突き出す。完全に太刀筋を受ける位置だ。
 この戦いの中でレインが打ち破ったのは、あくまでも『攻撃目的の魔法』である。ビゼラードが『防御』を強く意識し、密度を高めた魔法を打ち破るには彼以上の魔力が必要だった。
 レインでは打ち破れない。いや『レインだけ』では打ち破れない。

「確かに俺の魔法では君には『勝てなかった』さ。いつだって結果は更新されていくものだよ、過去だけで物事を判断するなよ。いつまでも過去に囚われるな」

 レインとツクネ。二つの風を纏った剣は、まるで豆腐でも斬るように炎の盾を縦に割く。それと同時にレインが口にした『過去に囚われるな』という言葉には『これまでのレインでしか強さを判断しないこと』と『辛い過去を引きずり続けていること』の二つの意味が込められていた。
 言葉の意味をビゼラードが理解したかどうかはわからない。だが、自分の防御魔法が敗れる様を目撃したことで動揺したのは確かだった。

「なっ・・・・・・!」

 一瞬の隙を見せてしまったビゼラード。その瞬間を逃さず、レインは振り下ろしていた剣を地面すれすれで切り返す。下から上に斬り上げる斬撃。まるで上空から下降してきた燕が再び上昇するかの如くであった。
 燕返し。いつかこの技がそう呼ばれる時代がこの世界にも訪れるかもしれない。
 レインの斬撃はビゼラードの下腹部から鎖骨まで一気に駆け上り、彼の血液を巻き散らせた。
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