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レイン、死の瞬間

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 ビゼラードはレインに刺された傷を押さえながら言った。
 確かに彼の言う通りである。たとえ魔力を消費しすぎたとしても、最終的に生き残った方が勝ち。起き上がることもできないレイン相手に魔法など必要ないだろう。
 虫の息とはよく言ったもので、レインがどれだけ空気を吸い込んでも肺まで到達せずに口から出ていった。ひゅーひゅーと浅く弱々しい呼吸が聞こえる。
 胸に穴が開いているのだから無理もない。
 ビゼラードはそのままレインに近寄ると彼の右腕を踏みつけた。

「うっ・・・・・・」

 残っていた痛覚がレインの意思に関係なく声を漏らす。
 踏みつけてレインの腕を固定したビゼラードは彼が握っていた剣を奪い取り、そのまま構えた。

「あれだけ正義だ愛だと口にして、結局このザマですか。情けない、情けない。これだから弱者は手に負えないんですよ。いつだって言うことは大きく、成すことは小さい。そんな弱者が集まり、虫のように大きなものを動かそうとする。悍ましく吐き気がしますね。自分の矮小さを知りながら・・・・・・私の正義と愛が正しいと知りながら楽になるといい」

 ビゼラードはそう言いながらレインに首に剣を向ける。
 回避することも防御することもできないレインは、残っている体力の全てを使い微笑んだ。

「本当に・・・・・・自分を正しいと思っているのなら、そこまで激昂する必要なんてないだろう? 君は気づいている、自分の歪みにね。怒りに任せて俺を殺せば良い証拠さ」
「弱者が死の淵で吐く言葉ほど心を動かさないものもありませんね」

 言いながらビゼラードは剣を振り下ろす。
 これはもう勝負ではない。決着後の処刑だ。ただ死を与えるための行動。
 ビゼラードにとってレインとの戦い自体はそれほど退屈なものではなかった。だが、結局足元に呼吸すらまともにできない状態で倒れている。
 この男もか、と胸の奥に残念な感情を覚えた。この男もまた、自分の正義を否定できなかった。自分の愛を覆せなかった。これからも自分は重く痛い愛を抱えて生きていくしかないのだろう。
 そんなセンチメンタルを捨てるようにレインの首を跳ねるのだ。

「ノ・・・・・・エル・・・・・・」

 もう自分にはノエルを救うことはできない。命をかけて戦った末だが、死力も全力も尽くしたが後悔は残る。
 すまない、クラノ。ここから先は託していいかい。どうかノエルを救ってやってくれ。ノエルの守りたかったものを守ってくれ。
 終わりの瞬間、レインがそう心の中で託す。
 それとほぼ同時、部屋の窓が割れ音が響いた。
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