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一手一手

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 育ちを連想させる言葉がビゼラードにとっては怒りのスイッチだったのだろう。
 レインが言葉にしていないことまで、言われたと思い込み怒りをあらわにしていた。
 相手の魔力に気圧されたレインが一瞬動きを止めると、ビゼラードは距離がある状態で拳を振り抜く。腕が伸びるような特殊能力でもない限り、レインには届かない。
 そのはずだったのだが、拳の先から炎が放たれ火炎放射器のようにレインを襲う。

「予備動作なしでこれか!」

 戸惑いながらもレインは右側に前転の容量で飛び込み、何とか回避した。
 しかし、ビゼラードの手は止まらない。

「この炎は母が私に残した愛! 私と母の愛の前に灰となれ!」

 ビゼラードはそう叫びながらレインが回避した箇所に向かって、再び拳を振り抜く。
 同じように炎が向かってくる中、レインは剣で絵の前に大きな円を描くように振るった。

「随分と執着的な愛だね。愛は押し付けるものじゃないさ」

 言いながら振るった剣には風を纏わせており、円を描くことで作り出した壁によって炎を防ぐ。
 一度ビゼラードの攻撃が止まったところでレインは「ほらね」と続けた。

「愛は自然と芽生えるものさ。押し付けた愛は相手に届かないよ」
「違う! 愛は時に痛く、熱いものだ! そうじゃなければ、そうじゃなければ!」

 両手を前に突き出したビゼラードから先ほどよりも大きな炎が放たれる。
 レインは自分の足元に風魔法を発動し、一気に飛び上がった。

「ツクネの技を借りるよ。ウィンド・ジャンプ!」

 倉野の相棒ツクネが風魔法で空を飛ぶのを知っていたレインは、自分にも応用できないか、と何度か練習していた。
 ツクネのように常に飛び続けることは叶わなかったが、風魔法で高く飛び上がることを習得していたのである。
 炎を回避したレインはそのままビゼラードに向かって斜めに落下。

「痛むのも熱くなるのも心だろ? それが愛なら」

 剣を構えながらレインが言うとビゼラードは再び両手を向けながら叫ぶ。

「黙れ!」

 一気に放たれた炎。空中にいるレインには回避のしようがない。だが、レインはその攻撃を予見していた。
 少し煽れば直線的な攻撃が来ると予測して、あえて空中で炎を受けたのである。

「怒りのままに攻撃を放ったんだろう? 目の前にそんな大きい炎があって、俺の姿が見えるかい?」

 レインは口角を上げた。
 ビゼラードの放った魔法によって、自身の視界を奪っている。その見上げている状態であるのならば尚更だ。
 これまで防戦に徹して溜め込んだ魔力を一気に解放する。

「戦いとは積み上げるものさ。一手一手積み上げたものが、王手につながる。さぁ、消火の時間だよ。フワァール・ウィンド!」
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