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熱い母の愛

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 これまでの攻撃から炎を何かの形で放つものだろう、と予測するレイン。
 その上、今のビゼラードは怒りに身を任せつつ、魔力を溜め込んでいるため無防備だ。
 一度通用しなかったとはいえ、魔法を発動する前に斬りつければ勝てる。
 レインが剣の届く間合いに入ってもなお、ビゼラードは防御行動を取ろうともしない。

「どうしてかはわからないが冷静さを失ったようだね。これで終わりだよ!」

 考えるよりも先に動いていたため、剣よりもレインの体がビゼラードの体に近い。レインの体の背後から剣を引き摺り出すような形で斬りかかった。
 途中防がれることもなく、鋭い刃はビゼラードの左腹部に入り込む。
 肉を切り裂く触感を得たレインは勝ちを確信。このまま肋骨をへし折り、内臓を切り裂きながら背骨を上下に分ければ、ビゼラードという人間はここで終わる。
 だが、そうはならなかった。
 もしもレインが本能ではなく、理性的に剣から動いていれば勝てたかもしれない。体から飛び込んでしまったことで生まれた一瞬の遅れが、剣を内臓まで到達させなかった。
 左脇腹に刃が数ミリ入り込んだところで、ビゼラードの咆哮と共にレインは大きく吹き飛ばされてしまう。

「うあああああああああああああ!」
「なっ・・・・・・」

 再びレインは背中から地面に叩きつけられるが即座に跳ね起き、状況を確認する。

「一体、何が」

 受けたのは炎による攻撃ではなく、爆風のようなものだった。火傷のようなダメージは受けておらず、ただ突風に弾き飛ばされただけである。
 決して無事とは言えないが、ビゼラードが溜めていた魔力を考えると大したことはない。
 一瞬安堵しかけたレインだが、目に映ったものが絶望を押し付けた。

「私の育ちを否定するということが! どれほど重い罪なのか! その身をもって思い知るがいい!」

 そう叫ぶビゼラードの姿はまるで炎の神、いや悪魔のようであった。
 全身に炎を纏い、髪の毛は揺らめく炎のように蠢いている。

「何だい・・・・・・それ」

 性格どころか姿まで変わってしまったビゼラードに言葉を失いかけるレイン。だが変わったのはそれだけではない。今のビゼラードは常に魔力を全開放している状態だった。
 つまりビゼラードはいつでも強大な魔法を発動できる。

「私は! 生まれた瞬間に強者だった! これだけの魔力を持って生まれたんだ。御しきれぬ魔力は暴走し、たびたびこの姿に変わった。まだ世界を知らぬ幼子が! 強者として、脅威として扱われる。多数弱者によって、悪魔だと石を投げられるんだ。私だけならいい、ママは・・・・・・私の母は、悪魔を産んだ女としてどれだけの迫害を受けたと思う、どれだけ苦しんだと思う! させない・・・・・・私の育ちを否定することは絶対にさせない。母の愛をなかったとは言わせない!」
「そんなこと一言も言ってないんだけどね、俺は」
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