上 下
669 / 729
連載

正義とは

しおりを挟む
 満身創痍とまでは言わずともレインが一方的にダメージを受けている状況である。
 圧倒的にビゼラードが有利であることは明確だ。
 それでもレインは余裕の笑みを浮かべる。

「いたぶられているつもりはないよ。それに俺の極限を勝手に決めないでもらえるかい? 知らないのか、主役は窮地に陥ってから活躍するものなのさ」

 レインはそう言い放ちビゼラードに向けて一歩踏み出した。自分の傷など気にせず右足に全体重を乗せた大きな一歩。それは走るというよりも横向きに飛んだと言った方が正しい。
 そのまま剣を腰の位置に構え、横向きの斬撃を放った。
 どれだけ慣れている者でも、いや慣れている者だからこそ剣の一撃を警戒する。しかし、ビゼラードにとってレインの攻撃など警戒する必要などないらしく、瞬き一つせずに右足で地面を踏みつけた。
 すると、直後にその場から火柱が立ち上がり、ビゼラードの正面で障害物となる。
 全速力で突撃していたレインは文字通り『飛んで火に入る』状態である。

「私の手が停止していると見て、無策で飛び込んできましたね。手の動きなどなくともこの程度ならば発動可能ですよ。自ら死に飛び込むとはいい趣味をしていますね」
「予備動作なしでこのレベルの魔法か!」

 レインは右足で踏ん張り、ギリギリのところで右側に回避した。
 だがビゼラードはレインが右側に回避することすら先読みし、既に炎の槍を放っていた。

「右利きのあなたが攻撃につなげることを考えればこちら側に飛ぶしかありませんよね。しかし、ここは行き止まり・・・・・・デットエンドです!」
「くっ!」

 回避したばかりで足が追いついていないレインに再度回避できるわけもない。体の真ん中目掛けて襲いくる炎になすすべなくレインは貫かれた。
 かと、思われたが間一髪のところで剣で受け止め、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。

「ぐぁ!」

 致命傷だけは避けられたものの、剣の面積では防ぎきれなかった火の粉を身体中に浴びた。細かな火傷を負いながら吹き飛ばされ背中から地面に叩きつけられるレイン。
 それに対してビゼラードは涼しい顔でため息を吐く。

「やれやれ、私との差を肌で感じ取ったでしょうに。そんな無様な姿を晒しているあなたが私に何で勝てるというのです?」

 問いかけられたレインは剣を杖代わりにして立ち上がり、いつものように笑みを浮かべた。

「覚悟と騎士道さ。それだけの力を持ちながら正義のない君に負けるわけにはいかないな」
「正義、ですか。正義など形のないもの。私にとっての正義があなたにとってそうではないというだけでしょう。力こそが正義・・・・・・力なき者は正義に従うだけです」
「ふっ、正義の反対は別の正義ということかな? じゃあ、勝った方の正義が正しいってことで!」
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。