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足元を這う凡人

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「一度防がれた攻撃を繰り返すのかい!」

 先ほどと同じようにレインは炎の槍に剣を振り下ろした。
 しかし、自らを天才と呼ぶビゼラードが無駄だと分かっている攻撃を繰り返すわけがない。
 炎の槍はレインの剣を弾き返し、そのままレインの左脇腹を掠めた。

「うぐあ!」

 直撃しなかったとはいえ、高密度かつ高温の魔力の塊。無傷というわけにはいかなかった。レインの服を焼き、腹部をあらわにする。その部分には切り傷と焦げた跡が残っていた。
 慌てて自分の腹部を抑えるレインだが、倒れることはなくそのまま剣をビゼラードに向け続ける。
 しかし、先に攻撃を受けたのはレインだ。ビゼラードは微笑を浮かべながら眼鏡を中指で押し上げる。

「油断しましたか。先ほどと同じ攻撃ならば同じように防ぐことができると。これだから凡人は凡人なのですよ。見た目に騙され、本質を見極めることができない。とはいえ、体の中心を貫こうとした攻撃が体を掠めた程度・・・・・・あなたを見くびっていたことは認めましょう」

 ビゼラードにそう言われたレインは無理やり口角を上げた。

「それは嬉しい話だね。ようやく認めてもらえたようだ」
「認めたのは私が見くびっていたことだけですよ。あなたが凡人であることに変わりはない。さぁ、この攻撃から逃れられますか?」

 言いながらビゼラードは両手を上に掲げる。その瞬間、背後に炎の槍が数本発生した。
 話しながら魔力を練り上げていたのだろう。

「質と量の両立ってのはこれのことかい? これは厄介だな」

 余裕そうな表情で呟くレインだが、内心焦っていることは額から流れる冷や汗をみれば分かる。
 しかし、どんな状況であれ諦めるわけにはいかない。レインは必死に魔力を練り上げ、可能な限り剣に風を纏わせる。
 魔法だけで比べればビゼラードに勝てるはずもない。だが、見る限り身体能力はレインの方が上だ。組み合わせれば劣っている部分を補うことができる。
 レインが剣を握る手に力を込めるとビゼラードは掲げていた両手を一気に振り下ろした。

「炎はいい。凡人の形跡を全て消し去ってくれる!」

 その動きに合わせて全ての炎はレインに飛びかかる。

「傲慢だね、炎は。所構わず煌々と光を撒き散らす」

 レインはそう返して、炎の槍に合わせて剣を振った。
 一本一本、全体重を乗せて炎をかき消す。剣を振るたびに全身の筋肉が軋んだ。一撃ごとに限界突破していることがわかる。
 だが、レインが全力を込めて剣を振っても全てをかき消すことはできず、炎の波が終わるまでに右足と左肩に掠めてしまった。

「く・・・・・・」

 左脇腹と同じように服が焼け、切り傷と焦げ跡が刻まれる。
 身体中の酸素を吐き切ってしまったレインが深く早い呼吸をしていると、ビゼラードは呆れたようにため息を吐いた。

「もう極限といった様子じゃないですか。私には相手をいたぶる様な趣味はありませんし、さっさと終わりにしましょう」
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