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倉野VSディション

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 倉野は魔法というこの世界においては当然のチートに、複数の強力なスキルという異質なチートで真っ向から戦うことを決意したのである。
 もちろん『魔法を越えられるのは魔法だけ』という法則を覆せるわけではない。だが、これまでの経験から『魔法は無限に生み出せるものではない』と知っている。
 勝機はそこにあった。
 倉野がスキル『神速』を解除した瞬間、世界の時間は動き出す。
 ディションほどの実力者が倉野の気配に気づかないはずもない。一秒にも満たない時間で察し、即座に剣を抜く。

「何だぁ、お前」

 ひどく濁った声で粘着質な話し方をしながらディションはバックステップで倉野と距離を取った。
 ディションから異様な雰囲気を感じ取った倉野は、思わず拳を構える。この男の経歴を知っているからか、身体中に血の匂いが染み付いているような気がした。
 警戒の色を強めた倉野に対してディションは口の端を大きく上げる。

「おおう、戦う意思を確認したぜ、俺ぁよ。じゃあ、敵だな。おおう、敵だ。じゃあよ、殺さねぇとな」

 そう話すディションは砂漠で乾き切った者がオアシスを見つけた時のように、敵がいることを心から喜んでいた。
 強者の雰囲気に飲まれそうになる倉野だったが、恐怖や躊躇いを振り払いディションに向き合う。

「ああ、僕はノエルさんの味方で、ノエルさんの敵の敵だ!」
「ああ? ノエル? おおう、あの女の仲間かよ。じゃあテメェのよ、面の皮を剥いであの女に突きつけてやりゃ、少しは大人しくなるか? 器量はいいが中身はジャジャ馬もいいとこだぜ、ありゃあよ。静かになりゃ用途も増えるってもんだぜ」
「用途だと?」
「はっ、テメェも男ならわかんだろ?」

 言いながらディションは自分の股間辺りに左手を置いた。
 その言葉を聞いた瞬間、倉野の中で何かが弾けた音が響く。

「ノエルさん・・・・・・こんな奴らの側で何日も・・・・・・バレンドットを守るために・・・・・・ふざけるなよ」
「ああ? 聞こえねぇよ」
 
 ディションは倉野を揶揄うように小指で耳をほじる。
 喜怒哀楽のグラフが見えるなら、倉野のグラフは一箇所が限界突破しているだろう。『怒』だ。

「ふざけんなって言ってんだ! もういい、何も聞きたくない。二度とノエルさんの名前を口にするな!」
「何だぁ、テメェもあの女とやりてぇだけだろ? 俺の後でよけりゃあ『貸して』やるぜ。ノエルをよ」
「口にするなって言ってるだろ!」

 倉野はスキル『神腕』と『体術』を組み合わせてディションに殴りかかる。『神速』を使わなかったのは魔法による防御を警戒してのことだ。倉野には魔力や魔法を感じ取る能力がない。そのため、この一撃で決めるというよりも、疲弊させるという目的の方が強い攻撃だ。
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