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待機と東西

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 進軍速度を上げてすぐ、月明かりが地上を照らしていたのだがいつの間にか雲がかかり、完全な暗闇が訪れた。
 松明や魔法による光だけを頼りに軍は進む。倉野たちはヴェルフェールと一緒に兵の前を歩いているため、背後から大勢の圧を感じた。ヴェルフェールの話では千人以上いるという。
 全員が味方であると考えれば心強い。
 街を出てからはヴェルフェールとレオポルトで地図を見ながら相談しつつ、それぞれの配置を確認する。

「もうしばらくすれば古城が見えてくるはずです」

 ヴェルフェールは言いながら地図に指で小さな円を描いた。その辺りにゼット商会が根城にしている古城がある。
 レオポルトはヴェルフェールの指を目で追いながら頷いた。

「ふむ・・・・・・では、この辺りが分岐点か。そろそろ軍を分けて進むべきでしょうな」
 
 古城を目視で確認できないギリギリの距離。夜の闇が助けてくれているということもあるが、こちらから見えないということは向こうからも見えないということ。
 作戦開始まで姿を隠すのであれば今の距離を保たなければならない。
 それを確認したヴェルフェールは背後にいる兵たちに「進軍停止」と命じる。その言葉は伝言ゲームの要領で全ての兵に伝えられた。
 兵たちの停止を確認するとヴェルフェールは改めて倉野たち四人とサウザンドを呼ぶ。それぞれの兵を率いる六人だ。
 全員が集まったところでヴェルフェールは再び地図上に指を置いた。

「ここからは軍を三つに分けます。ここに残る者と東西に分かれる者。まずここに残るのはサウザンド、お前だ。バレンドット最強を誇る武力でゼット商会本拠地と王城の最短距離を守る。わかっているな?」

 今いるこの場所は王城から真っ直ぐ古城に向かう道の上である。開戦と同時にゼット商会が攻め込めば必ずこの場所を通るのだ。そこにサウザンドと兵の四割を置く。

「はい」

 サウザンドが静かに返事をするとヴェルフェールは小さく頷いて話を続けた。

「私と残りの四人はそれぞれ東西に分かれ進むことになりますが、移動は古城を中心に円を意識してください。弧を描くような移動です。常に一定距離を保つように」

 ヴェルフェールの言葉を聞いたレオポルトは理解した上で話を引き継ぐ。

「ああ、ギリギリまで向こうに悟られないように、ですな。東に向かうのはヴェルフェール殿とレイン、お前さんだ。西にはワシとクラノ、リオネが向かう。そこから先もそれぞれの配置で分かれ待機する。再び全員が顔を合わせるのは勝利の時だけだ」
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