655 / 729
連載
乾燥する唇
しおりを挟む
個人的な強さだけでもなく、人をまとめる能力まで有しているサウザンドにうっすら寒気を感じる倉野。だが、今はレオポルトの言う通りありがたい。
自然とバレンドット軍に馴染むことができた。
そこからバレンドット軍は予定通り二つに別れる。
ヴェルフェールが率いる兵が全体の半分。サウザンドが率いるのは全体の四割程度である。残りの一割はそれぞれ倉野、レオポルト、レイン、リオネの後方支援に当てられた。
直接率いるわけではないが、何かあった時に対応できるよう近くに控えておく役目である。
全体での最終確認を終えたバレンドット軍及び倉野たちは王城を出立した。
既に外は真っ暗になっており、闇に溶けた王城が全員の背中を押す。守らなければならないものがあるのは倉野たちやヴェルフェールだけではない。全ての兵に家族や大切な人、思い出の場所、そして故郷がある。今から向かうのはこれらを守る戦いだ。
絶え間なく聞こえる足音の中でレオポルトが呟く。
「空気が重いな、乾燥して重苦しい空気だ。唇が乾く」
ちょうど隣で聞いていた倉野は、自分よりも背の高いレオポルトを見上げながら聞き返す。
「意外とデリケートなんですね」
「意外とはなんだ。戦場では全ての感覚を研ぎ澄ませねばならん」
言いながらレオポルトは自分の唇を撫でた。
その動作に何の意味があるのか、と倉野は首を傾げる。
「それはわかりますけど、唇の感覚も研ぎ澄ませるんですか?」
「もちろんだ。土煙が舞い上がり乾燥した空気・・・・・・そこに水分が混ざる時、それは開戦の合図だからな」
「水分が開戦の合図・・・・・・どうしてです?」
「わからんのか? 戦いが始まれば汗が流れるだろう。乾燥が吹き飛ぶほどにな」
そう話すレオポルトはどこか悪戯な笑みを浮かべていた。その肩越しにレインが笑う。
「ははっ、こんな状況でクラノを騙してどうするんだい? むしろ戦いが始まればより乾燥することもあるくらいさ。大量の流血を伴えば湿気が発生することもあるけどね」
レインが説明すると倉野は「なんでこんなタイミングで騙すんですか」と不満を漏らした。
しかしレオポルトは悪びれずに再び唇を撫でる。
「全てが嘘というわけでもない。ワシらが待っている『合図』も湿気を伴うからな。先ほどよりも少しだけ湿気を感じる。少し急がねばならんようだ」
レオポルトはそう言ってから近くを歩いているヴェルフェールに声をかけた。
進軍速度を早めようと提案し、ヴェルフェールはそれを受け入れる。兵に指示を出すのはヴェルフェールの役目だが、国王エクレールより全権を任されているのはレオポルトだ。
理由が明確である以上、ヴェルフェールはそれに従う。
自然とバレンドット軍に馴染むことができた。
そこからバレンドット軍は予定通り二つに別れる。
ヴェルフェールが率いる兵が全体の半分。サウザンドが率いるのは全体の四割程度である。残りの一割はそれぞれ倉野、レオポルト、レイン、リオネの後方支援に当てられた。
直接率いるわけではないが、何かあった時に対応できるよう近くに控えておく役目である。
全体での最終確認を終えたバレンドット軍及び倉野たちは王城を出立した。
既に外は真っ暗になっており、闇に溶けた王城が全員の背中を押す。守らなければならないものがあるのは倉野たちやヴェルフェールだけではない。全ての兵に家族や大切な人、思い出の場所、そして故郷がある。今から向かうのはこれらを守る戦いだ。
絶え間なく聞こえる足音の中でレオポルトが呟く。
「空気が重いな、乾燥して重苦しい空気だ。唇が乾く」
ちょうど隣で聞いていた倉野は、自分よりも背の高いレオポルトを見上げながら聞き返す。
「意外とデリケートなんですね」
「意外とはなんだ。戦場では全ての感覚を研ぎ澄ませねばならん」
言いながらレオポルトは自分の唇を撫でた。
その動作に何の意味があるのか、と倉野は首を傾げる。
「それはわかりますけど、唇の感覚も研ぎ澄ませるんですか?」
「もちろんだ。土煙が舞い上がり乾燥した空気・・・・・・そこに水分が混ざる時、それは開戦の合図だからな」
「水分が開戦の合図・・・・・・どうしてです?」
「わからんのか? 戦いが始まれば汗が流れるだろう。乾燥が吹き飛ぶほどにな」
そう話すレオポルトはどこか悪戯な笑みを浮かべていた。その肩越しにレインが笑う。
「ははっ、こんな状況でクラノを騙してどうするんだい? むしろ戦いが始まればより乾燥することもあるくらいさ。大量の流血を伴えば湿気が発生することもあるけどね」
レインが説明すると倉野は「なんでこんなタイミングで騙すんですか」と不満を漏らした。
しかしレオポルトは悪びれずに再び唇を撫でる。
「全てが嘘というわけでもない。ワシらが待っている『合図』も湿気を伴うからな。先ほどよりも少しだけ湿気を感じる。少し急がねばならんようだ」
レオポルトはそう言ってから近くを歩いているヴェルフェールに声をかけた。
進軍速度を早めようと提案し、ヴェルフェールはそれを受け入れる。兵に指示を出すのはヴェルフェールの役目だが、国王エクレールより全権を任されているのはレオポルトだ。
理由が明確である以上、ヴェルフェールはそれに従う。
0
お気に入りに追加
2,844
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。