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人心掌握術

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 最終軍議を終えた倉野たちは空の様子を確認しながらそれぞれの場所へと向かっていく。
 全員を部屋から送り出す際、エクレールは「この国を頼む」と頭を下げた。
 国王が簡単に頭を下げるものではない。エクレール自身もヴェルフェールもレオポルトもレインもそれはわかっていた。その上で何も言わずに強く頷く。
 その重さを受け止め、既に抱いていた覚悟に乗せる。
 この戦いで決まるのはバレンドットの未来ではない。『この世界の未来』だ。
 
 事前の打ち合わせ通り、ヴェルフェールが兵たちに指示を出す。王城の外で兵が隊列を組み、来るべき時に備えていた。
 話す内容は二つ。
 一つはゼット商会の幹部クラスと戦うのが倉野たち四人であること。もう一つは第三王女のノエルが囚われていること。
 最初は動揺を見せていた兵たちだったが、ヴェルフェールの右腕であるサウザンドが一喝することでその場を収め納得させた。

「ヴェルフェール様の指示に従えないという者は前に出ろ、私が相手をする。これは遠征ではない。仲良く手を繋いで敵の本拠地を見学しようという話ではないのだ。それぞれが同じ目的を持ち、役割を果たす。それができない者は必要ない」

 そんなサウザンドの言葉を聞いた倉野は、そんな言い方をすれば余計な反発を生むのでは、と心の中で呟く。
 その上、戦いを前にしたサウザンドは倉野たちを案内していた時とは違い、険しい表情を浮かべていた。その柔らかな物腰はどこに行ったのだろうか。
 兵たちの心が離れる心配をしていた倉野だったが、一瞬間を開けてサウザンドが言葉を付け足す。

「・・・・・・だが、そんな者はいないと信じている。この場にいる全員がバレンドットのために役割を果たせる。そうだろう? 私たちはヴェルフェール様の下で一つの刃となる。国王様を守る最強の刃だ。負けはしない・・・・・・この国を荒らす野蛮な賊などに負けはしない! そのためならば何でもする、違うか?」

 問いかけられた兵たちは一気に士気を上げ、同時に拳を天に向けた。
 大地を揺らすほどの叫び声がその場に満ちる。

「上手いな」

 サウザンドが兵をまとめる様子を見ていたレオポルトが呟いた。倉野が「上手い?」と聞き返すと彼は軽く笑って答える。

「緊張と緩和、突き放してから肩を組む・・・・・・この国最強の戦士は人心掌握にも長けているようだ。しかし、今はありがたい。これでワシらは誰からの抵抗も受けん。作戦は滞りなく進むということだ」
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