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『勝って』ください

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「ミミー・・・・・・弓を使う冒険者ならば、その名前を知らない人はいないでしょう。彼女が暗殺者でなければ最高の冒険者たり得たと言われています。私にはクラノさんのような力も、レオポルトさんのような経験も、レインさんのような騎士道もありませんが、弓ならば負けるつもりはありません」

 言いながら弓を握るリオネ。
 倉野がリオネの手に注視すると、よく見なければわからないほど微かに震えていた。ミミーのことを知っているリオネには自分との大きさの違いが見えているのだろう。
 そんなリオネを慮り、倉野が声をかけた。

「リオネさん、ミミーに関しては戦いの中で他の者と連携できないように引き離すことが『勝ち』です。真っ向から戦う必要はないですからね」

 幼い頃から闇の傭兵部隊に育てられてきたミミーは命令がなければ動かない。必ずしも倒すことが目的ではなかった。だからこそ、倉野はリオネがミミーと戦うことを止めなかったのである。
 しかし、リオネは首を横に振った。

「違いますよ、クラノさん。一度引き離しても再び合流されれば同じです。それにミミーが他の戦場に合流すれば、最強の援護となるでしょう。引き離すのは『勝ち』ではなく『最低限』ですよ。継続的に戦場から離脱させなければ意味がない・・・・・・でしょう?」

 リオネはわかっていた。倉野が自分を気遣ってくれていると。
 それ自体は心臓が跳ねるほど嬉しい。想っている人が自分の心配をしてくれているのだ。嬉しくないはずがない。
 しかし、それでもリオネは浮かれることなく、自分が何をすべきかわかっていた。
 倉野は彼女の強い瞳に押され、理解する。リオネはミミーを足止めするつもりで戦うのではない。倒すつもりで戦うのだ。
 強くまっすぐな覚悟を否定することなどできないだろう。

「・・・・・・そうですね。お願いします」

 そう答える倉野だったが、それでもリオネを想う心は消えない。そんな倉野にレオポルトが声を掛ける。

「お前さんの気持ちはわかるがな、心配せずともリオネは強い。命令を受けて戦うだけの兵士に、自分の正義と思いを抱き自ら戦う者が負けると思うか?」

 さらにレインも続いた。

「俺のような騎士道を持っていない? リオネは持っているよ。沸るような騎士道をね。だから、クラノ。言うべきことは『お願いします』じゃあないだろう?」
「レオポルトさん、レインさん・・・・・・そうでしたね。リオネさん、ミミーのことは任せます。必ず『勝って』ください」
「はい!」
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