異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

狙うは女王蜂

「ゼット商会はそれぞれが役割を持った組織です。指揮官、戦闘員、物流、そして『ドラゴンの逆鱗』を持ったデュワール・オレンジ・・・・・・カシスと言った方が分かり良いでしょうか」

　そうレオポルトが話し始めると、ヴェルフェールは首を傾げた。

「デュワールでいい。だが、それがどうした。組織とはそういうものだろう？」
「ええ、それが正規の軍だとすれば、それでもなんの問題もないでしょう。しかし、ゼット商会は同じ意思を持ったただの徒党。それぞれが補い合うことはできません。全員がひとつの役割しか持たぬ駒にすぎないのです。それはデュワールとて同じ。勝手な判断で『ドラゴンの逆鱗』を発動することは許されていない。つまり、縦横のつながりを断ち切れば『ドラゴンの逆鱗』が発動されることはありません」

　話を聞いた国王エクレールは両掌を合わせて、祈るような形で思考する。

「戦いが始まると同時にゼット商会をいくつかに分断する、ということか。連絡ができない状態にすることで『ドラゴンの逆鱗』を発動させない」
「その通りです、エクレール王」
「おい、レオポルト・・・・・・」

　そこでようやくエクレールは理解した。

「あまりにも危険な賭けだな。全てを理解したわけではないが、要するに一発勝負の賭けをしようということだろう」
「そこまでご理解いただけていれば十分です」

　決して好意的とは言えないエクレールの言葉に、口角をあげて答えるレオポルト。
　だが、エクレールにもわかっていた。そうするしかない、ということだ。

「・・・・・・そのためにノエルはゼット商会に囚われたのか。自ら選んで・・・・・・」

　エクレールが問いかける。そう、彼の言う通りだ。ノエルはゼット商会の状況を知り、こうするしかない、と判断した。
　そして内と外から同時攻撃を仕掛けることで、文字通り蜂の巣をつついたようにゼット商会をバラバラにする。
　大切なことは女王蜂を逃さないことだ。ゼット商会の指揮を取る者を確実に捕らえ、デュワール・オレンジへの命令を出させない。
　失敗すれば即座に『ドラゴンの逆鱗』を発動するだろう。二度目はない。まさに『一発勝負の賭け』である。
　レオポルトはエクレールに真剣な眼差しを向ける。

「それがノエルの覚悟です、エクレール王」
「覚悟・・・・・・か」

　そう呟いてからエクレールは「確かに」と続けた。

「この話を知らなければバレンドットはいずれゼット商会に奪われていただろう。だが、理解した今、我が国の軍だけでも戦えるはずだ。お前たちは情報を伝えるだけでよかったのではないか？　しかし、戦うという確固たる意思を感じる。どうしてだ？　ノエルの覚悟に答えるためか、闘いを求める血煙の獅子ゆえか」
「必要だからです。バレンドット軍が欠けてもワシらが欠けても、この作戦は成功しません」