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騙し合い

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 そんな倉野の疑問をヴェルフェールは首を横に振って否定する。まさに即答だった。

「いいえ、我々もバジル・インフェルノの危険性は承知しております。闇組織に所属していたという過去も、危険な思想を持っていることも、簡単に寝返るような男だということも知っています。『協力』という形ではこちらが利用される可能性もある」

 バジル・インフェルノのこれまでの行動を考えれば、倉野でも同じ考えに至るだろう。奴はある意味、倉野以上にスキルの重要性を理解している。
 戦闘力のおまけ扱いされているスキルだが、馴染んだ自分の一部。当然のように使えていたものが使用不可になれば、小さな違和感を産み、思考や行動が鈍るものだ。
 実力者同士の戦いともなれば、その一瞬の鈍りが勝敗を決する。
 バジル・インフェルノのスキルは引く手数多ということだ。
 それゆえに、奴は自分の価値を高く見積り危険な思想に至っている。
 裏切られる危険性というよりも、裏切られることは想定しうる未来。バレンドットよりも条件のいい組織があれば簡単に寝返る男だ。

「そうですね・・・・・・」

 倉野はそう返す。想定していたよりもヴェルフェールはバジル・インフェルノを理解していた。
 その理解から、ヴェルフェールはある方法に行き着いたのである。

「ですから我々は・・・・・・いや、俺はバジル・インフェルノを捕らえ、利用するというある種『非人道的』な方法を選びました」
「捕らえて利用する・・・・・・ですか?」
「ええ、バジル・インフェルノのスキルは強力なものですが、奴単体の戦闘力はそれほどではない。仕事の依頼だと呼び出し、叩きのめし、現在は地下牢に幽閉しています。命が惜しければ俺に協力しろ、と。その内容は反乱勢力ゼット商会との決着まで『国王様を含む王家』と『青』に対するスキルの無効化」

 つまり、ヴェルフェールはバジル・インフェルノに騙される未来が想定できるのならば、最初に騙すという方法をとったということだ。
 非人道的だと自分で理解しながらも、目的のために選んだ方法である。

「捕らえて無理やり協力させているんですね?」
「たとえ相手が悪人だと分かっていても、卑怯な行動だということに変わりはないでしょう・・・・・・しかし、人道よりも優先すべきことが俺にはある。国王様への忠義だ。それは何事よりも優先されるものです。どうでしょう、ご理解いただけますか?」

 正直、ヴェルフェールの意志を全て理解できたわけではない。だが、少なくともバジル・インフェルノを完全に利用するという策は理解できた。
 
「・・・・・・全てが終わったらバジル・インフェルノは・・・・・・その」
「殺すのか、ということですね。全てが終わったら我が国はゼット商会の後処理に追われているでしょう。奴の故郷を洗い、その国の法に委ねますよ」
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