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細身の剣

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「もうよろしいのではないでしょうか」

 突然、扉から入ってきてそう話し始めたのはヴェルフェールだった。
 彼はこれまでの話を全て聞いていたような口ぶりである。
 エクレールとしても退室を命じたはず、という憤りがあり眉間にシワを寄せた。

「何をしている・・・・・・ヴェルフェール」
「申し訳ありません。万一ということもありますので、部屋のそばで控えさせていただきました」

 エクレールとの間を歩きながらヴェルフェールは答える。
 無表情で歩くヴェルフェールを目で追いながら、レオポルトは顔をこわばらせた。
 レオポルトの嗅覚や聴力、これまで培ってきた全ての感覚に引っかからないほどヴェルフェールは完璧に気配を消していたのである。
 国王エクレールからの命令があったため、誰も部屋のそばにいないと思い込んでいたが、背中を取られるという経験の少ないレオポルトにとって驚きは大きい。
 もちろん、倉野やレイン、リオネも緊張した様子で見守っていた。
 スキル『説明』が通用しない男、ヴェルフェールが全ての話を聞いていたのである。もしもゼット商会と繋がっていれば、全ての情報が向こう側に流れるだろう。
 しかし、それも全て推測にすぎない。何もできずに動きを見守っているとエクレールが王の威厳を見せつけるかのように不満を露わにする。

「退室を命じたはずだ。 話を盗み聞き、無断で立ち入るなど何を考えている」

 エクレールの言葉を聞いたヴェルフェールは自分の左胸を押さえながら、頭を下げた。

「罰であればいくらでも・・・・・・何をしてでも国王様をお守りすることが我々の使命。国王様に何かあってからでは遅いですから」
「命令違反の上に開き直るつもりか。他にも聞いていた者はいるのか?」
「他の兵はそばにおりません。何かあれば私だけで対処できると踏んでおりましたので」

 ヴェルフェールの答えを聞いたエクレールは呆れたようにため息をつく。

「今お前の目の前にいるのは血煙の獅子だ。武器の有無は関係ない」

 言いながらエクレールは、ヴェルフェールの腰に装備された細身の剣に視線を送った。
 体の大きさにそぐわぬ細さである。
 レオポルトの正体を聞いたヴェルフェールは一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、納得したように頷いた。

「・・・・・・この方が血煙の・・・・・・なるほど。武器によって埋まる差ではないということですか」

 素直に自分がレオポルトよりも弱いと認めたヴェルフェール。その速度に倉野たちは違和感を覚えたものの、矢継ぎ早にエクレールが口を開いたため会話を追いかけることに思考を持っていかれる。

「まだお前は答えていないぞ、ヴェルフェール。何のために入ってきた。話を聞いているだけではなく、口を挟んだ理由は何だ」
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