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『死』と『栄誉』

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 倉野が言葉にした『整合性』に引っかかるレオポルトと、顔を覆うように右手中指で眉間に触れるエクレール。
 レオポルトが引っかかったのはその言葉の意味ではない。

「確かにそういう見方もあるが、クラノ。少し考えすぎではないか? 神格化されるのは結果論だ。犠牲にするという前提がある・・・・・・どうしたって命を軽んじていることには変わりないだろう」

 反論までもいかない言葉をレオポルトが口にすると、倉野は首を横に振った。

「いえ、レオポルトさん。エクレール王ほどの方が未来ではなく、目の前の結果だけを追うでしょうか? 僕はこれまでこの世界の様々な場面を見てきました。人によって大切にするものは違います。その中でこんな価値観を度々目にしました・・・・・・『命よりも栄誉』というものです。栄誉のためならば命を捨てる・・・・・・僕自身、納得はできないまでも理解はできます。国のために全てを捨てるエクレール王の価値観なのであれば、自分の子どもに『死』と『栄誉』を与えるのは、果たして非情なのでしょうか?」

 なぜここまでノエルを犠牲にしようとするのか。
 なぜここまで国のために、と強調するのか。
 考えた上で出した倉野の答えである。
 すると、エクレールは明らかに不機嫌そうに、目力を強めた。歴戦の国王の眼光はまるで重力のように体にのしかかる。平伏させる見えない力のようにも感じた。そんな重力を纏い、エクレールが聞き返す。

「何が言いたい」
 だが、それを感じたのはこの世界の序列や国王の権力を知っているレオポルトやレイン、リオネだけである。
 身分や権力とはほとんど無縁に生きていた倉野は、これまでの経験から理解はしているが、心に根付いてはいない。
 遠慮などせず、倉野は己の気持ちを言葉にした。

「僕には到底納得できるものではありませんが、エクレール王の根底にあるのは『愛』なのではないですか? エクレール王自身がこの世界で地獄を見てきた。生きることの辛さを知っている。そして、ここから先は地獄のような戦いが始まるでしょう。逃げながら戦うことの苦労は想像に難くないですから。そんな地獄を子どもに味合わせず、『栄誉』という結果を与える。もしかすると、それは親として残せる『愛』だと、合理的に判断したのではないですか?」

 もしもそうだとするならば、随分と歪んだ愛である。
 しかし、ノエルから聞いているエクレールの人物像を考えれば、歪む可能性は低くない。国のために親を手にかけ、様々な犠牲を目にしてきたエクレールだ。血を恨みながらも子を愛していたとするならば、戦死させることと栄誉を与えることで同時に叶えられる。
 人間は『整合性』を取ろうとする生き物だ。
 例えばパートナーの幸せを毎日祈った者は裏切り行為をしないと言われている。幸せを願っておきながら裏切るわけにはいかない。『整合性』が取れないことをしない生き物なのである。
 あくまで倉野の仮説だったが、エクレールなりの『整合性』を考えればあり得なくはない。
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