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連載
整合性
しおりを挟む「どのような戦場においても、戦闘を務めしんがりまで戦い抜く・・・・・・というのか?」
エクレールは慎重に確認する。
この契約の締結がバレンドットの未来を決めるかもしれない。そう考えるだけの理性は残っていた。
しんがりとは戦いにおいて味方を逃すため、最後まで戦い抜く者。命懸けの囮と言ってもいい。
レオポルトの覚悟は確かだった。
「ノエルを救うと約束いただけるのであれば、老兵の命くらい懸けましょう」
そう頷きながら答えるレオポルト。彼にはわかっていた。ノエルを好き出す役割を単独で担えるのは倉野だけだろう。しかしゼット商会との全面戦争が始まり、状況が混乱した時、誰がノエルに手が届くのかわからなくなる。
その時、重要になってくるのは国王の意志だ。
全体としての方向性に『ノエルを救う』という前提を組み込むことは重要だった。そこには自分の命を懸けるだけの理由があるというレオポルトの判断である。
するとエクレールは数秒渋い顔をしたものの、仕方ないといったように頷いた。
「話に嘘がないのであれば、約束しよう」
ようやくエクレールから言質を取ったレオポルトは、背後を振り返り全員の表情を確認する。
レインとリオネは喜びから口角を上げていたが、倉野だけが不思議そうな顔をしていた。
「どうした、クラノ」
レオポルトが問いかけると、倉野は胸に残る違和感を言葉にした。
「どうして、そこまでノエルさんの命を軽んじようとするのですか? いや、むしろ犠牲にしようとしている」
その声量は十分エクレールに届くものだったが代わりにレオポルトが答える。
「エクレール王は前代国王の行動を呪いのように考えておられるのだろう。私利私欲のために国民を苦しめた歴史は心に残り、血はエクレール王に受け継がれている。自らの血を恨むあまりに、犠牲にするならば身内だと考えておられるのではないか?」
しかし、倉野は納得できなかった。
「どこかおかしくないですか。もしも、先ほど国王様が考えておられていた作戦が成功して、ノエルさんとクリステラルドさんだけが犠牲になった場合、どうなるでしょう。あまり考えたくないですが、英雄視されるのではないでしょうか」
「ああ、だろうな。最低限の犠牲に抑えた英雄として神格化されることもある。争いの歴史の中でそのようになった者は少なくない」
レオポルトがそう答えると、倉野はさらに話を続ける。
「エクレール王は自らの血を恨んでおられるのであれば、自分たちが英雄視されるような方法を選ぶでしょうか? 自らの血が英雄視されれば、王家がさらに国民から支持される。自分の血がバレンドットを治め続けることになります。そこに『整合性』が感じられないように思いませんか?」
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