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最小限の犠牲、最大限の絶望

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 エクレールの言葉や表情から、今ならば聞き入れてもらえるのだと判断しレオポルトは話の核心に触れ始めた。

「ドラゴンの逆鱗という話はご存じですか?」
「・・・・・・御伽噺を始めるつもりか?」

 話を聞くつもりだったエクレール王でも、受け入れられないくらいの話だったらしい。この世界において『ドラゴンの逆鱗』とは、そう思われるもの。
 わかりやすく例えるならば、真剣な恋愛相談をしている最中に『恋が実るキューピッドの矢』の話をされたような状態だ。
 若干の不満げを表情に浮かべたエクレールに対し、レオポルトは言葉を続ける。

「そのようなつもりはありません。ワシが冗談や戯言を口にしているように見えますか?」
「見えんから問うている。ただでさえ疑問の多い状況だ。ややこしい状況な上に、話の先が見えん。余計な問いかけを増やしてくれるな」
「ではまず、ワシの話を一度飲み込んでいただきたい。信じるか否かは、その後に」

 相手がこの国の王であることを忘れているかのようにレオポルトは話を主導する。
 エクレールはレオポルトだからこそ、その態度をよしとして頷いた。

「ああ、そうしよう。だが、お前の言う通り信じるか否かは、話の後に決める」

 エクレールの言葉を聞いたレオポルトは慎重に話を始める。

「一度飲み込んでいただきたいお話。それは『ドラゴンの逆鱗』は実在するということです。それは御伽噺でも陳腐な英雄譚でもなく、事実。そしてこれは現在のバレンドットと深く関わる話。エクレール王の望み通り、結論から申し上げましょう。ゼット商会にいる男が『ドラゴンの逆鱗』を所持しています」
「何だと? 一体、どういう・・・・・・いや、聞こう。続けてくれ」

 エクレールは溢れ出る疑問をギリギリのところで堰き止め、約束通りレオポルトの話を聞き続けた。
 しかし、表情や態度から分かるように、レオポルトの話を真実だと受け止め始めている。命懸けで嘘をつく利点など存在しない、と分かっているのだろう。
 またレオポルトもそんなエクレールの心情を感じ取り、冷静に話を進めた。

「ご存知の通り『ドラゴンの逆鱗』が破壊されれば、その周辺はドラゴンの群れによって草木も生えぬ平らな土地にされる。もう一度言いましょう、これは御伽噺ではないのです、エクレール王。たとえエクレール王が自らの血を受け継ぐ子を犠牲にし、被害を最小限に抑えようとしても、ゼット商会は・・・・・・」

 そこまでレオポルトが話したところで、エクレールが右腕を伸ばして強制的に話をやめさせる。
 口を塞がれたわけではないが、エクレールの反応を確認しながら話していたレオポルトは瞬時に口の動きを止め、再び動向を見守った。

「王座を奪い取れないのであれば、この国を滅ぼす・・・・・・か」

 エクレールは伸ばしていない左手を自分の額に置きながら、絶望の淵で呟く。
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