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立派な国王様

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 そうエクレールが言うのも無理はない。
 レオポルトの話の中に出てきた単語は、到底信じられるものではなかった。

「この国を救うために? なんだ、その話は。私の興味を引くためとはいえ、あまりにも現実味のない話だとは思わなかったのか。いいか、レオポルト。お前がどこまで知っているのかは知らんが、ゼット商会の動向は把握している。奴らが持っているのは攻城兵器や大量の武器だ。その上で、奴らは根城を不定期に移動しているため居場所をつかめてはいないが、攻城兵器を移動させるのには時間がかかるだろう。仮に突然攻めてきたとしても、時間を稼ぎ城を捨てれば良いだけの話。その為の城だ」

 どうやらエクレールはゼット商会が持つ、最高戦力を知らないらしい。
 レオポルトもあえて『ドラゴンの逆鱗』については話していなかった。世界を揺るがすほどの情報だからである。相手がバレンドット国王であろうと簡単に話すわけにはいかない。
 しかし、今の言葉でエクレールの想定する作戦は見えてきた。

「まさかエクレール王は逃げながら戦うおつもりですか?」

 レオポルトが問うと、エクレールは気に障ったらしく眉間にシワを寄せる。

「それが最も犠牲を出さぬ方法だ」

 レオポルトとエクレールの間のみで通じている話に、倉野は首を傾げた。
 逃げながら戦うと決めたエクレールを見抜いたレオポルト。それに対して最も犠牲が出ない方法と答えるエクレール。
 言葉の裏にどのような真意が隠されているのか、話の流れについていけてなかった。

「レオポルトさん、一体・・・・・・」

 倉野が小さな声で問いかけると、レオポルトは任せろと言わんばかりに微笑む。

「エクレール王は分かっておられるんだ。ゼット商会の最終目的が自分であること。ゼット商会が行動を起こせば自分を囮にして、国民を守る覚悟を決めている。それが最も犠牲を出さない方法、なのだろう。仮にエクレール王が殺されるようなことがあれば、バレンドットは再び世界の覇権を握るために戦う国となる。つまり、自分を囮にした上で生きなければならないと考えておられるのだろう」

 倉野たちにわかるよう説明するレオポルト。
 彼はさらに言葉を付け足した。

「エクレール王が守ると決めているのはこの国と民・・・・・・その中にノエルは入っていない。そうでしょう?」

 エクレールに問いかけると、王座に座る彼は肯定するように鼻で笑う。
 それによって自分の推測が正しいと確信したレオポルトは言葉を続けた。

「ゼット商会がエクレール王を直接狙うために行動を起こした時、それは交渉の決裂を意味する」
「交渉・・・・・・ですか?」

 倉野が聞き返すとレオポルトは頷く。

「ノエルやその兄、クリステラルドの命と引き換えに王座を明け渡すことだ」
「それじゃあ、決裂ってノエルさんたちが」
「冷酷、ではなく冷静なのだろう。エクレール王はそういう方だ。バレンドットの未来を考えた結果、どちらを切り捨てるべきかと秤にかけたのだろう」

 もしもノエルたちと引き換えに王座を明け渡せば、バレンドットは前王と同じような国になる。戦いに明け暮れる日々。国民が安心して生きることのできない国だ。
 エクレールが逃げながら戦うということは、ノエルたちがいつ殺されてもおかしくない。全てわかっていての判断だった。
 レオポルトは立ち上がって、エクレールに視線を向ける。睨みつけているわけではなく、心の奥底に視線を潜り込ませるようだった。

「随分と立派な国王様になられましたね。エクレール・マスタング」
「ようやく獅子らしくなったな・・・・・・レオポルト・バッセル」
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