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レオポルトのカマかけ
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するとサウザンドはどこか不気味な笑顔で頷く。
「ああ、そうでした。報告書にはそう書いてありましたね。申し訳ありません、あまりにも急でしたので、失念しておりました」
「そうか。ワシには確認しているように思えるが・・・・・・ウィローから届いている情報の整合性を確かめたい、というところか」
「いえいえ、そんなこと致しませんよ。単純に私が失念していただけの話です。不快に思われたのであれば、謝罪させていただきたい」
表情を全く崩すことなく言い切ったサウザンドは頭を下げた。
彼の動作や言葉から何かを読み取ることができない。
そんなサウザンドと向かい合うレオポルトが珍しく困っているようだったので、倉野は外を向くフリをしてサウザンドに見えないようスキル『説明』を発動する。
対象は『サウザンド・バイジーの素性』だ。
いつもならば倉野は自分からスキル『説明』を発動せず、レオポルトの指示を待っていただろう。しかし、ここまでの成長によって彼は自らの強大すぎるスキルと向き合う覚悟を得ていた。ノエルを救うためにできることは全てする、それが倉野の素直な意志である。
しかし、覚悟を押し返すようにスキル『説明』は何も表示しない。
ただ何も書かれていない画面が、車の外に現れただけだった。
「まさか、この人も・・・・・・」
倉野が小声で呟くと隣に座るレインが頬を寄せてサウザンドに悟られないように訊ねる。
「どうしたんだい、クラノ。何かしていたようだけど」
「レインさん・・・・・・このサウザンドという男もスキルで素性を確認することができないんです」
「じゃあ、この男の背後にもバジルという男がいるのかい?」
レインはそう言ってからレオポルトの脇腹を肘で叩いた。
獣人の聴力であればここまでの話は聞こえているだろう。それをわかっていてレインは、次の行動を託したのである。
レオポルトは少し悩んでから、サウザンドの反応を見逃さないように注意深く観察しながら、真っ向から言葉にした。
「サウザンド殿、話は変わるのだが、どうしても聞きたいことがある」
「はい、なんでしょうか? 私の方もいくつか聞きたい話はありますので、先にどうぞ」
「そうか、それでは遠慮なく聞かせてもらおう。バジル・・・・・・という男を知っているか?」
カマをかける。罠を張る。そんな形で放たれたレオポルトの言葉だったが、サウザンドはまたしても表情を変えない。彼は動揺など全くしていない様子で答えた。
「いえ、知りませんね。過去にあったことがあるとしても、覚えていられない程度の関係だったのでしょうか。その、バジルという男がどうしました?」
「知らなければいいんだ。忘れてくれ」
これは大きな賭けだった。何か反応を得られれば、サウザンドやヴェルフェールがバジルと繋がっている確証を持てる。しかし、隠し通されれば、こちらがバジルのことを知っているのだと教えるだけになってしまう。
本当にサウザンドがバジルと繋がっているのならば、向こうに情報が渡っただけ。賭けとしては失敗である。
レオポルトがこのような賭けに出たのは焦りからだった。
「ああ、そうでした。報告書にはそう書いてありましたね。申し訳ありません、あまりにも急でしたので、失念しておりました」
「そうか。ワシには確認しているように思えるが・・・・・・ウィローから届いている情報の整合性を確かめたい、というところか」
「いえいえ、そんなこと致しませんよ。単純に私が失念していただけの話です。不快に思われたのであれば、謝罪させていただきたい」
表情を全く崩すことなく言い切ったサウザンドは頭を下げた。
彼の動作や言葉から何かを読み取ることができない。
そんなサウザンドと向かい合うレオポルトが珍しく困っているようだったので、倉野は外を向くフリをしてサウザンドに見えないようスキル『説明』を発動する。
対象は『サウザンド・バイジーの素性』だ。
いつもならば倉野は自分からスキル『説明』を発動せず、レオポルトの指示を待っていただろう。しかし、ここまでの成長によって彼は自らの強大すぎるスキルと向き合う覚悟を得ていた。ノエルを救うためにできることは全てする、それが倉野の素直な意志である。
しかし、覚悟を押し返すようにスキル『説明』は何も表示しない。
ただ何も書かれていない画面が、車の外に現れただけだった。
「まさか、この人も・・・・・・」
倉野が小声で呟くと隣に座るレインが頬を寄せてサウザンドに悟られないように訊ねる。
「どうしたんだい、クラノ。何かしていたようだけど」
「レインさん・・・・・・このサウザンドという男もスキルで素性を確認することができないんです」
「じゃあ、この男の背後にもバジルという男がいるのかい?」
レインはそう言ってからレオポルトの脇腹を肘で叩いた。
獣人の聴力であればここまでの話は聞こえているだろう。それをわかっていてレインは、次の行動を託したのである。
レオポルトは少し悩んでから、サウザンドの反応を見逃さないように注意深く観察しながら、真っ向から言葉にした。
「サウザンド殿、話は変わるのだが、どうしても聞きたいことがある」
「はい、なんでしょうか? 私の方もいくつか聞きたい話はありますので、先にどうぞ」
「そうか、それでは遠慮なく聞かせてもらおう。バジル・・・・・・という男を知っているか?」
カマをかける。罠を張る。そんな形で放たれたレオポルトの言葉だったが、サウザンドはまたしても表情を変えない。彼は動揺など全くしていない様子で答えた。
「いえ、知りませんね。過去にあったことがあるとしても、覚えていられない程度の関係だったのでしょうか。その、バジルという男がどうしました?」
「知らなければいいんだ。忘れてくれ」
これは大きな賭けだった。何か反応を得られれば、サウザンドやヴェルフェールがバジルと繋がっている確証を持てる。しかし、隠し通されれば、こちらがバジルのことを知っているのだと教えるだけになってしまう。
本当にサウザンドがバジルと繋がっているのならば、向こうに情報が渡っただけ。賭けとしては失敗である。
レオポルトがこのような賭けに出たのは焦りからだった。
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