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積もる疑念

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 ウィローたちが身を隠している森に入るなり、レオポルトは周囲を見渡した。生物の気配は感じない。
 だが、彼らは森のどこにいても呼ばれれば出てくると話していた。それを信じてレオポルトが声を掛ける。

「ウィローはいるか」

 大声と言うほどでもない声量だ。しかし、即座に頭上からガサガサという木の葉が揺れる音が聞こえ、人間が降ってくる。
 ウィローと一緒にいた男の一人だ。突然のことに倉野とリオネは驚いていたが、レインとレオポルトは驚くほど落ち着いている。誰かが出てくることはわかっていたのだから当然といえば当然かもしれない。

「準備は整った、ということでしょうか」

 男はやけに丁寧な口調で言う。どうやらウィローが認めた倉野たちに敬意を払っているらしい。
 相手の口調など気にせず、レオポルトは頷く。

「ああ、予定通りだ」
「こちらも予定通りです。ヴェルフェール元帥との連絡も取れ、国王様への謁見も問題なく可能です。バレンドットへの入国も既に手を回しています。ヴェルフェール元帥の部下が橋で待っていますので、お声がけください」

 男がレオポルトに手筈を説明した。これでバレンドットへの入国も国王エクレールへの謁見も問題ない。
 しかし、それによってレオポルトの心にあったヴェルフェールへの疑念は濃くなる。
 バレンドット軍の最高指揮官であるヴェルフェールがわざわざ自分の部下を送るだろうか。もちろん、倉野たちがノエルのことも反乱のことも知っているのだから、無視できる存在ではない。だが、現時点でどれほど戦力になるのか、どれほどの情報を持っているのか把握できていないだろう。
 スムーズな高待遇がヴェルフェールの怪しさを増した。

「そうか……いや、助かる」

 レオポルトがそう答えると男は頭を下げる。

「いえ、これがバレンドットのためになるのであれば」

 まるで狂信者だ、とさえ思ってしまう。自分立場を捨てざるを得ない状況になった元親衛隊は、バレンドットのために動くことでしか自分を保てないのかもしれない。
 それが本当にバレンドットのためなのか、ヴェルフェールのためなのか。判断する余裕などないだろう。彼らは自分たちの行動を正義だと信じるしかないのだから。
 元親衛隊の男はレオポルトへの報告を終えると、再び木の陰に戻っていった。
 いつゼット商会の関係者が森に訪れるか分からないと考え、そうしているのだろう。改めて考えれば他にも方法があっただろう。数ある選択肢の中でも非効率的で酷な方法だ。
 もっと言えば、国内に留まる方法もあったはず。
 レオポルトだけでなく、倉野やレイン、リオネもそう感じていた。
 
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