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連載
闇の傭兵
しおりを挟む 手配書は五枚。説明を始める前にパスカルは「これで全員ではないのですが」と前置きした。
「これは似顔絵ではなく手配書です。どの人物も各国から危険人物と認定され、国を追われております。確定情報ではないのですが、闇の傭兵として非合法な仕事を請け負っている、との噂も。ザクローのような小悪党に闇の傭兵たちとの直接的な繋がりがあるとも、雇うだけの資金があるとも考えられません。間に誰かがいる可能性が高いでしょう」
「ああ、そうだな。それも思想の象徴になるような人物かもしれない」
ウィローがそう返すとパスカルは再び首を傾る。
「思想の象徴ですか?」
「ああ、我々が国王という象徴のもと正義を執行するように、向こうにもこれだけの行動を起こし、人を動かせるほどの象徴がいるかもしれないという可能性の話だ。他国との戦争が目的ならば、他国から流れてきた、その国に恨みを持つ者であれば象徴的だろう。またバレンドット内で反乱を起こそうとしている場合は、王家に恨みを持つ王家の血筋・・・・・・いや、この発想はあまりに不敬だな。いくら可能性とはいえ口にしていいことではない。忘れてくれ」
ウィローは乾いた笑いを浮かべ、首を横に振った。そんなことを考えてしまうなんて疲れているのかもしれない。
情報を確認し終えた二人はここから先、調査しなければならないことを整理する。
まずはゼット商会の目的。戦争なのか反乱なのか、それともただ秘密裏に武器を流通させているだけなのか。相手の目的がわからなければ動くことはできない。
次に総戦力の確認だ。どの程度の戦力を保持しているのか、それに対してどれほどの戦力ならば対抗できるのか。有事に備えて調べておく必要がある。
最後にザクローの協力者の有無とその詳細。目的の調査に通ずる部分はあるが、敵の詳細を知らなければ全ては後手に回ってしまうだろう。ここも優先させておきたい。
「ともかくわからないことだらけだ。パスカル、お前の判断で三つの班を作り動かしてくれ。だが、あくまでも行動の最小単位は二人一組だ。個人行動がないように釘を刺しておけよ。うちの隊と第四部隊の兵、互いに背中を守り合うよう言っておけ」
指示を出し終えたウィローが最後に付け加えると、パスカルは力強く頷いた。
「はい、承知いたしました。これ以上、死者が出ぬよう、必ず守らせます」
「ああ、頼んだ」
まだわからないことは多い。敵の正体など半分以上わかっていない。けれどその危険性を理解し、体制は整えた。ここからだ。ここから相手を調べ上げ、目的もろともゼット紹介を叩き潰す。バレンドットのために死んでいったバルドルイットのためにも。
自分に言い聞かせるようなウィローの想い、そして覚悟。
それは親衛隊隊長としての正義を燃え上がらせた。
燃え盛る炎も、海をひっくり返したような豪雨の前では無力である。
数日後、ウィローは全てを失うことになった。
「これは似顔絵ではなく手配書です。どの人物も各国から危険人物と認定され、国を追われております。確定情報ではないのですが、闇の傭兵として非合法な仕事を請け負っている、との噂も。ザクローのような小悪党に闇の傭兵たちとの直接的な繋がりがあるとも、雇うだけの資金があるとも考えられません。間に誰かがいる可能性が高いでしょう」
「ああ、そうだな。それも思想の象徴になるような人物かもしれない」
ウィローがそう返すとパスカルは再び首を傾る。
「思想の象徴ですか?」
「ああ、我々が国王という象徴のもと正義を執行するように、向こうにもこれだけの行動を起こし、人を動かせるほどの象徴がいるかもしれないという可能性の話だ。他国との戦争が目的ならば、他国から流れてきた、その国に恨みを持つ者であれば象徴的だろう。またバレンドット内で反乱を起こそうとしている場合は、王家に恨みを持つ王家の血筋・・・・・・いや、この発想はあまりに不敬だな。いくら可能性とはいえ口にしていいことではない。忘れてくれ」
ウィローは乾いた笑いを浮かべ、首を横に振った。そんなことを考えてしまうなんて疲れているのかもしれない。
情報を確認し終えた二人はここから先、調査しなければならないことを整理する。
まずはゼット商会の目的。戦争なのか反乱なのか、それともただ秘密裏に武器を流通させているだけなのか。相手の目的がわからなければ動くことはできない。
次に総戦力の確認だ。どの程度の戦力を保持しているのか、それに対してどれほどの戦力ならば対抗できるのか。有事に備えて調べておく必要がある。
最後にザクローの協力者の有無とその詳細。目的の調査に通ずる部分はあるが、敵の詳細を知らなければ全ては後手に回ってしまうだろう。ここも優先させておきたい。
「ともかくわからないことだらけだ。パスカル、お前の判断で三つの班を作り動かしてくれ。だが、あくまでも行動の最小単位は二人一組だ。個人行動がないように釘を刺しておけよ。うちの隊と第四部隊の兵、互いに背中を守り合うよう言っておけ」
指示を出し終えたウィローが最後に付け加えると、パスカルは力強く頷いた。
「はい、承知いたしました。これ以上、死者が出ぬよう、必ず守らせます」
「ああ、頼んだ」
まだわからないことは多い。敵の正体など半分以上わかっていない。けれどその危険性を理解し、体制は整えた。ここからだ。ここから相手を調べ上げ、目的もろともゼット紹介を叩き潰す。バレンドットのために死んでいったバルドルイットのためにも。
自分に言い聞かせるようなウィローの想い、そして覚悟。
それは親衛隊隊長としての正義を燃え上がらせた。
燃え盛る炎も、海をひっくり返したような豪雨の前では無力である。
数日後、ウィローは全てを失うことになった。
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