上 下
580 / 729
連載

部下を失う痛み

しおりを挟む
 離れた場所からでも部下だと認識できたのは、その遺体がパスカルにとって相棒と呼べるほど近しい存在だったからである。
 名前はバルドルイット。だが、もはや名前など意味がない。部下であり相棒であった彼は、不憫な遺体として処理される。
 パスカルが冷静さを取り戻した頃には親衛隊員が全員集まっており、一番最後に現れたウィローが周囲を見渡して、全員に指示を出した。

「状況を報告しろ」
「隊長!」

 兵舎に顔を出してすぐ非情なほど淡々と指示を出すウィローにパスカルが声を掛ける。
 しかし、一つの組織をまとめる人間が感傷的であってはならない。冷静なのは当然か、と思い直し言葉を止めた。
 ウィローはそんなパスカルの気持ちが手に取るようにわかる。何故ならば彼の心の中も、煮えたぎるような憤りと凍てつくような悲しみに埋め尽くされていたからだ。

「まずはバルドルイットへの祈りを捧げよう。命をかけて任務を遂行した男だ、魂も体も扱いは丁重にな。それが終われば報告に来い、パスカル」

 言いながらウィローは胸の前で両手を組んで目を閉じる。ご苦労だった、ゆっくり休め、この国は守ってみせる、伝えたい言葉を素早く伝えるとウィローは隊長室に向かった。
 いつもの場所でいつもの椅子に座ったウィローだが、自分の体の一部が欠けたかのような気持ちに襲われる。いつだってそうだ。部下を失った時は必ずこうなる。

「甘く見ていたのは俺だ・・・・・・あいつらならば大丈夫、とタカを括っていた。いや、焦っていたのかもしれない・・・・・・俺は何を言い訳している。全ては俺のミスだ。戦うべき相手を甘く見ていた結果、部下を失ったのは事実。すまない、バルドルイット」

 一人の部屋で深く頭を下げるウィロー。その表情は痛みに満ちている。
 だが、これで危険性を考慮した調査ではなくなった。ここから先は国家に仇なす危険な相手を排除する任務。
 何か起こるかもしれない、ではなく、何か起こることを前提としなければならない。
 ウィローがその思考に至った瞬間、パスカルが部屋に入ってきた。

「隊長、報告に」
「ああ、頼む」

 互いに互いの痛みを理解できるがゆえに、言葉は少ない。それでも報告が始まればパスカルは副隊長としての責任を果たした。

「バルドルイットは単独で例の業者への潜入を行っていました。例の業者では伝わりづらいと思いますので、正式に『ゼット商会』と呼びます。これは廃業する前の名称です。バルドルイットは非合法な荷物運びを依頼する商人という立場でゼット商会に近づき、その実態を探っていました」
「非合法な荷物運び・・・・・・具体的には何を扱っていた」
「先日、他国から密輸入された薬物です。販売前に押収したものをそのまま流用しました」
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

無能な癒し手と村で蔑まれ続けましたが、実は聖女クラスらしいです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:7,087

【完結済み】婚約破棄致しましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,001pt お気に入り:8,514

星   

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

転生ババァは見過ごせない!~元悪徳女帝の二周目ライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,685pt お気に入り:13,508

その花の名前は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:702pt お気に入り:4,164

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:2,319

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。