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事実と真実

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「な、何熱くなってんだよ」

 突然、叫びを向けられた男はウィローに対して気味の悪さを感じながら距離を取る。
 相手の反応は自分の現状を映し出す鏡だ。それによって自分が冷静さを欠いていると気づいたウィローはグラスに残っていた酒を飲み干し心を落ち着かせる。

「・・・・・・すまない。少し驚いてしまってな」
「あ、ああ。いきなり戦争の話なんて聞けば誰だって動揺するさ。いい酒がありゃ、大抵のことは忘れられる。気にすんな」

 アルコール成分によって気持ちも器も大きくなっているのだろうか。男は笑いながらウィローの肩を叩いた。
 軽く叩かれただけ。痛みを感じるような力加減ではない。しかし、ウィローの中には確かに痛みが残っている。
 傷んでいるのが心だと気づいたのは二人組の男たちが酒の礼を言って店を出て行った後だった。
 残ったウィローは目の前で両手を重ね、祈るかのように目を閉じる。

「武器の買い込み・・・・・・攻城兵器・・・・・・だが、国軍内にそのような動きはない。全ては嘘・・・・・・しかし情報源は商人、か」

 呟きながらウィローはその情報の信憑性について考えた。
 商人の才能とは情報収集能力に依存している、と語る者もいるほど彼らは世間の動きに聡い。そうでなくては商人として食っていくことができないからだ。何が売れ、何が売れないのか見極めることが出来る者だけが商人であり続けられる。
 そんな商人の間で語られている『噂』が、『嘘』であるわけがない。多少、尾ひれがついているだろうものの、そこには真実が混じっているはずだ。
 
「国王様が戦争を目論んでいるというのは、積極的消去法から導き出された尾ひれ・・・・・・であれば武器が買い込まれているのは事実だろう。その動きがバレンドット国内にあるのもまた事実。つまり戦争を企てているという事実は存在する・・・・・・しかし、事実が真実であるとは限らない」

 戦争の準備がそのまま戦争計画に繋がるのか。ウィローの経験と知識、そして何より直感がそれを否定していた。

「・・・・・・戦争ではない。ならば国内に武器を集めている理由は・・・・・・反乱、か。いや、飛躍しすぎ・・・・・・でもないか。あり得ない話ではない。血塗られたこの国の歴史を全て国王様に被せ、綺麗になった国を奪い取る・・・・・・確かめる必要があるか」

 思考の海から納得のできる答えを見つけ出したウィローは、金を机の上に叩きつける。

「店主、金はここに置いておくぞ」

 気づいてしまった以上、放っておくことはできない。己の正義と国王エクレールを信じ、ウィローは動き始めた。
 彼はまだ、それが最悪の序章だとまだ気づいていない。
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