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王の血

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 エクレールの言葉を聞いたゾルディは怒りの温度を上げる。

「ふざけるな! 俺を息子だと認めないなんてどうでもいい・・・・・・けれど母さんへの侮辱だけは絶対に許さない。ただ一言母さんへの謝罪があれば良かったんだ。お前には人の血が通っていないのか!」
「その通りだ。王に通っているのは王の血である。その血の重さを知らぬ者が同じ目線で話を進めるなど片腹痛い。忠告はしたぞ、セルティアの子よ」

 そう言ってからエクレールは大声で兵士を呼んだ。王の指示を受けた兵士たちはゾルディの身柄を瞬時に拘束し、次の指示を待つ。
 何とか兵士たちを振り払おうと暴れながらゾルディはエクレールを睨みつけた。

「おい! これがお前のやり方か。気に入らないものを切り捨て、消し去り、過去すらも捻じ曲げる! そんなこと俺が許さない!」

 ゾルディの吐き出したその言葉には怒りと憎しみが溢れそうなほど込められている。しかし、エクレールは顔色ひとつ変えずに言葉を返した。

「過去に何の意味がある。人は過去を生きることなどできない。どのような時も現在を生き、未来に向かっているものだ。この国に過去など必要ない」

 エクレールがゾルディ本人に向ける言葉はそれが最後だった。息継ぎの間もなく兵士たちに、城の外に捨ててくるよう命じる。
 身体を引きずられながらもゾルディは最後の最後までエクレールに感情をぶつけ続けた。

「くそ! 許さない・・・・・・絶対許さねぇぞ、エクレール・マスタング! 必ずだ。必ず後悔させてやる!」
「黙れ! 国王様に対して何を言っている!」

 兵士たちに言葉を遮られながらも憎しみに満ちた瞳はエクレールを捉えている。謁見の間から連れ出される瞬間まで、それは続いた。
 一人残ったエクレールは天井を眺めながら己の中にある過去を探る。

「セルティアが死んだ・・・・・・か。終わりの瞬間まで私に対して想いを・・・・・・愚かな女よ」

 そう呟くエクレールは胸を抉られたかのように悲しい表情を浮かべていた。

 ゾルディがエクレールへの謁見を行なってから数ヶ月後。バレンドット国内では妙な噂が流れはじめた。
 国王親衛隊隊長ウィロー・ジマリドがその噂を聞いたのは休日の夜に訪れた酒場でのことである。
 一人で酒を飲んでいると隣の席にいた男性二人組の話が聞こえてきた。

「だから、さっさとこの国を出たほうがいいかもしれねぇって話さ」
「確かに戦争が始まるってんじゃあ危ねぇわな。商売のしようがなくなる」
「ああ、積極的に他国を攻めれば先代国王の頃と同じになるだろうよ。いつ死ぬか分からないって怯えながら飢えに苦しむ生活だ。まったく国王様の考えることはわからねぇな。わざわざ平和を捨ててまで国を大きくする意味がどこにあるってんだか」
「違ぇねぇな」
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